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チェーン展開しているカフェの夕方から夜にかけて。駅前の混雑店の癖に、店員は、社員の店長とバイトの修に真野さんの三人だけ。明らかな人手不足だ。二人は基本キッチンなので、修はカウンターを一人で回す。
「ありがとうございました」
最後のお客さんを、修はテーブルを拭きながら見送った。
ささっと着替えて、店を出た真野さんの後に続こうとしていたら、店長から「これ、今日のお礼。知り合いにもらったお守りなんだけど。自分にはちょっと可愛過ぎるから」と、小さなブタの人形を二個手渡された。
「どうして二つなんですか?」
「大切な人と持ってると、幸運が訪れるらしい」
「えっ?俺より真野さんの方が……」
修は自分で言って悲しくなり、途中で止めた。
照明を落としたカフェで、白と赤のブタが一体ずつ手のひらに。
「田中くん。おじさんは、君みたいな良い子に良縁があってほしいんだよ」
店長が発した「良い子」の意味を自分なりに噛み砕く。
(きっと、真野さんが口にしてた「良いように」も含まれてるよなぁ……)
修はなんだかそんな気がした。
「ありがとうございます」
右手に握った紅白のブタを、スマホが入っていない方のパンツのポケットへと仕舞う。
「 お疲れ様でした」
本当は、訊いてみたい気持ちもあった。
『その良い子ってのには、【店長にとって】ってニュアンスも含まれますか?』って。
さすがに意地汚い大学生だと思われそうで、次からのシフトのことを考え口にしなかったけれど。
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