被害者の憂鬱

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 さんざん悩んだ結果、あまりにも粘着質なアカウントが増えたことと、謂れのない誹謗中傷に疲れ果てた結果、ルリコはさかくらのアカウントを削除するしかできなかった。  たくさん感想ももらったし、なかには一連の出来事がルリコの本意ではないとわかって励ましてくれた人だっていたが、中には「こんなことにかまっている暇があったら続きを書いてください」という声もあり、それに同調する流れもあったのが、削除の決め手となった。  ここで初めて自分の小説に自信を深め、書籍化を決め、今の出版社のお世話になることができたというのに。  悔しくて悔しくてたまらないと、ルリコは打ち合わせに行った際にタニシにこぼした。  打ち合わせしながら、タニシはルリコの話を聞きつつ、全部聞き届けてから、ようやく声をかけてくれた。 「……でも、やまださんはこれでよかったと自分は思いますよ?」 「……それって、アカウント消したこと、でしょうか?」 「ええ。たしかに、今は小説投稿サイトで小説を探し、それを見つけて書籍化するという流れが存在しますが、同時に声の大きな人が勝つ、というおかしな流れも存在していますから。……前にも言いましたよね。はっきり言って、ネットで『いい』と言われた作品が、必ずしも本の売り上げには繋がらないと」 「……言っていましたね」 「声が大きいからと言って、その本が欲しい人に必ず届くわけではないんです。やまださんの作風は少女小説で、少女小説が好きな人はさかくらのユーザーの一割も満たしていませんから」  少女小説メインの小説投稿サイトは、現状では存在しない。そういうサイトをつくろうとしている動きはあるらしいが、未だに実現はされていない。  それはそれで、「出版社は売り出したい作家を売るためにそんな大がかりなことをするんだろう」と言い出す人間がいて、根拠がないとはねれば「火のないところに煙は立たない」と騒ぎ出す。  結局のところは、出版社に最低限宣伝してもらったあと、少しずつ読んでほしい人に勧めていく以外にないのだ。 「私、ネットで小説を書くの、怖くなってきましたよ。あんなに好きでしたのに」 「そうですねえ……でも、やまださんの小説をもっと読みたいという方がいることだけは、絶対に忘れないでくださいね」 「え……?」  タニシが取り出した封筒に、ルリコは驚いて目を落とす。大きな封筒の中には、カラフルな封筒が次々と飛び出てきた。 「前回の話がよかったんでしょうね。前回の作品の感想がこんなに届いたんですよ。待っている人が、こんなにいるんです」 「すごい……こんなに、ですか?」 「はい」  ファンレターなんてものは、てっきり都市伝説だとばかり思っていたが、まさかこんなに届くなんてルリコは夢にも思っていなかった。 「読んでいいですか?」と聞いたら頷いてくれるので、急いで封筒を一枚一枚開ける。  綺麗な手書きのイラストを描いてくれる人もいれば、達筆過ぎて読めない人、すごい癖字ながらも「面白かったです」と短い文をくれる人……。  メールは打てば顔も見せずに投稿できるが、ファンレターはレターセットを買って、切手を買って、郵便ポストを探さないと送れない。こんなに手間暇かけてファンコールをくれる人たちは本当にいたのかと、思わずルリコは背中を丸めた。  ファンレターが濡れてしまわないようにかばいながら。 「……タニシさん、私、小説書きます。次の作品も頑張ります」 「ええ。頑張りましょう」  もうネットには上げられることはなくても、小説を頑張って続けよう。  そう思うには十分だった。
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