3人が本棚に入れています
本棚に追加
ベッドを背もたれにして座っていると、水を火にかけている音と共に味噌の匂いが鼻腔をくすぐった。味噌雑炊だ。冷凍庫にストックしてある米を使って手早く料理する音が聞こえてくる。時間が進むにつれ漂ってくる匂いが変化し、調理を終え菜々美がこちらに運んできてくれた頃には自然と口腔に唾液が滲み出ていた。
「お待たせ。」
前のテーブルにそれを置くと菜々美はそのまま俺の向かい側に腰を下ろした。
「ちょっとだけでもいいから食べてみて?」
俺が口をつけるまで動かないと言わんばかりに菜々美は言った。味噌の色に浸かる白い米。そこに黄身と白身が混じり合い浮かぶ卵。熱々の柔らかい雑炊の上で瑞々しさを保ったまま小さくと積まれた青ネギ。その湯気が近くで沸き立っていると遠くで嗅ぐよりもさらに俺の食欲を掻き立てる。
綺麗に準備された木のスプーンを手にし、積まれた青ネギの端から一掬いした。二、三度息を吹きかけて口の中にそれを運ぶ。まだ熱い、柔らかい米が味噌と出汁に包まれ味が生まれる。それにふんわりとした卵とシャキッとした青ネギの食感が混じって溶ける。何故かこれまでに食べた味噌雑炊でこれが一番美味しいように感じた。食欲がなかったことなど遠に忘れ、気がつくと二口目、三口目と口に運んでいた。
「よかった〜。食べられるみたいだね。」
そんな俺を見て安心したように菜々美は言った。
「美味しい。」
夢中で食べていたため忘れていた言葉を伝えると、菜々美は嬉しそうに笑った。
「...ねえ、私もちょっともらっていい?なんかお腹空いてきちゃった。」
持っていたスプーンを渡すと、菜々美は「ありがと」とそれを受け取って雑炊を一掬いし、息で冷まして口に運んだ。
「半分こしよ。」
二口目に手をつけた菜々美もどうやら食欲が出てきたようなので、菜々美を食べさせるために俺は提案した。断られるかと思ったが、菜々美は柔らかく笑って、うんと頷いた。体が温まっているように菜々美の顔色に血気が戻り、湯気越しに見える暖かい表情を見て俺も少し安心した。
最初のコメントを投稿しよう!