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(まぶしい!)
それが最初のボクの感想だった。家の中は常に薄暗かったからだ。
(風がきもちいい! 空気が美味しい)
ウラニシさんの家には、いつも糞尿や死体が転がっていた。その匂いが充満していて、きちんと息をすることすらできなかったのだ。
(でも、どこに行ったらいいんだろう)
ボクは、外に出るのも初めて。太陽を見るのも、道を歩くのも初めて。ろくにご飯を食べていなかったから、体はもうフラフラだった。
(せっかく外に出たけれど、もう駄目かもしれない。このまま天国のお母さんのところに行くのかなあ)
よろよろと横道ばかり歩いていると、突然、広いところに出た。その隅っこに枝をうんと伸ばした大きな樹がある。せめて少しでも涼しいところで死のうと思い、その樹の下を我が死に場所と定めて寝転んだ。
そうして意識がフワフワし始めたところを、人間の女の子に見つかったのだ。
「お母さん、この子、大丈夫かな?」
という声とともに、心配そうな顔がボクを覗いた。
「舞、だめよ」
「だってこんなに痩せ細ってるし、あちこち傷だらけだし、病気かもしれないよ」
「野良の子はね、そうやって一匹で死んでいくものなの。自然の掟なのよ」
「そうかもだけど……ほら、このあいだお父さんが、『犬や猫を飼うと、ジョーソー教育にいいらしい』って言ってたじゃん!」
そう言って、女の子はボクを両手でそっと持ち上げた。
「すぐ近くに動物病院があるから、連れて行こうよ」
どうやら助かったらしい。ボクはすっかりこの女の子を信用して、身を委ねた。
しかし安心したのも束の間、「動物病院」では大変な目にあった。
身体をゴシゴシと丸洗いされ、爪を切られた。暴れまわったボクは、三人の人間に押さえられていた。しまいには、
「はい、お注射するからね、ちょっと我慢してね」
と言われたかと思うと、プスッと針を刺された。イタタタタタ!
「あら大人しいねえ、お利口さん」
と針を刺した人に言われたけど、痛みと恐怖で声も出なかっただけだってば。
「お母さん見て! 綺麗な毛並みだね」
「あら本当。ロシアンブルーかしら。綺麗なシルバーグレーの毛並みねえ。まるで別人、じゃなくて別ネコね」
そう言ってお母さんは眩しそうにボクを見た。
「目の色は青だよ! お空の色みたい!」
女の子はそう言って、ボクの背中を撫でた。女の子の腰まで伸びる髪に光が当たって眩しい。天使ってこんな感じかな、とボクは思った。
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