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でも、お母さんもお父さんも、圭君のことを持て余しながらも、結局は「大事な長男」と言って大切にしている。この間は試験でいい点をとったご褒美とか言って、圭君が欲しがっていたカーゴパンツとシャツを何枚も買ってきて、家の中でファッションショーが始まった。
「なかなか似合うじゃないか」
「お父さんに似て背が高いから、何でも似合って格好いいわ」
と、二人とも目を細めていた。
舞ちゃんのお友達も、圭君のこと、「カッコイイ」って言ってたな。
そうか、圭君は「カワイイ」じゃなくて、「カッコイイ」で二人に癒しを与えているんだな。圭君も愛玩動物なんだ!
圭君の場合、それが分かってて好き放題やっているようだけれども。
「なっちゃん、久しぶり! どうしたの? 元気?」
お母さんが、スマートホンで誰かと喋っている。
「こっちも元気よ、おかげさまで。子どもたち? 中一と小六よ。うん、二人とも元気。一人は元気すぎるくらいだけどね。え、猫を飼わないかって? うち今、一匹飼ってるのよね」
もう一匹、仲間が増えるの? 舞ちゃんを取られちゃわないかなあ。
「まあ、そんなことがあったの……ウラニシさん? さあ、聞いたことないわね。あんなところにゴミ屋敷なんてあったの? 気付かなかったわ」
え、ウラニシさんがどうかしたの?
「大変ねえ。協力してあげたいけど、うちは一匹だけで手一杯だわ。周りにも猫を飼いたい人がいないか聞いてみるね」
じゃあね、と言って、お母さんは電話を切った。
「お母さん、猫飼わないの?」
舞ちゃんが、ちょっと残念そうな顔で訊いた。
「圭がもうちょっと協力的なら、あと一匹くらい飼えるかもしれないけど……あの子、何にもしないからね」
そんなことよりお母さん、ウラニシさんに何かあったの?
「今お母さんがお話してた、なっちゃんて人ね、お母さんの同級生なんだけど、猫の保護活動をしているんですって。それで最近猫を八十匹保護したから、一匹飼わないかって」
「八十匹!」
「駅前の商店街の近くにゴミ屋敷があるらしいんだけど、知ってる?」
「知らない。でも、ウラニシさんってお名前、聞いたことがあるなあ……」
舞ちゃんは首を傾げている。デイサービスで会った人だよ、舞ちゃん。
「年配の人が暮らしてたそうだけど、その方、ゴミに埋もれたまま亡くなってたんですって。しかも何日か放置されてて、この暑さでしょう? 腐ってた上に、猫が齧った痕もあったみたい……あ、ごめんごめん、舞」
舞ちゃんが耳をふさいで泣きそうな顔をしている。お母さん、舞ちゃんを怖がらせるようなこと言わないでよ! それに、ボクも泣きそうだよ! ウラニシさん、死んじゃったんだ! 仲間たち、そんなウラニシさんを齧るしかなかったんだ!
「猫ちゃん達、大丈夫だったの?」
「大丈夫よ。なっちゃんがね、全部保護したって」
「よかった!」
舞ちゃんが笑顔になった。でもボクは、胸の奥が少し苦しい。
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