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「きのうはごめんね」
一日明けて砂浜を訪れると彼女が待ってた。
「怒らせちゃったのかと心配した」
昨日現れなかった理由がわからない僕はそれが気がかりだ。
「ちょっと、病状が悪くて。散歩の許可が出なかったんだ。あたしの楽しみな時間なのに。駄目だね。落ち込んだ時は悪化するんだ」
重たい部分もある話を彼女は笑いながら話してる。彼女はずっと病と一緒なんだろう。こんなことにも慣れてるみたいだから。
「一つ伝えておきたいことが有るんだけど、良いかな?」
「改まってなんなの? もしかして告白とか?」
ケラケラと全く病気なんてことを思わせないように笑う彼女に僕は「うん。そうだよ」と答えた。
すると彼女は一度驚いたのか咳をしてから立ち上がって僕に向かい合った。
「ごめん。それは辞めておこうよ。あたしが健康だったら嬉しいんだけど」
「それはわかってる。だから伝えたいんだ。僕は君が好き。多分ハツコイ。そう思いたい人なんだ」
笑って向き合ってた彼女の表情が沈む。そして砂浜に水滴が落ちた。
雨じゃない。彼女の瞳から涙が落ちてる。
「あたしも! だけど、こんな病気持ちが恋なんかしても哀しいだけなんだ!」
わんわんと彼女は泣き始めてしまう。
それでも僕は落ち着いていた。会えなかった昨日ずっと考えていたから。
「俺はそれで構わない。君がこの世に存在するなら。病気でも。会える時間がちょっとでもあったら」
泣いている彼女の肩に手を当て話す。だけど涙は終わらない。
暫く泣いてちょっと落ち着くと、彼女は顔を挙げる。
「やっぱり辞めよう。あたしはそんなの哀しいよ。ずっと会いたい。いつまでも話していたい。だけど、叶わないんだ」
「なら、進学して君が学校に通えるようになったら付き合って。僕は待つよ。君がいつまでも笑えるときまで」
このときは僕のほうが笑ってた。それを見た彼女は呆気にとられたみたいにポカンとしている。
「うん。そうだね。その願い叶えたい。君とあたしの夢を」
「君の病気だって治らない訳じゃないでしょ。心配ないよ。きっと良くなる」
全然理由なんてないけど、僕は彼女ならと言う自信がある。悪いようになんて進まないんだ。
「となると、治療に専念しなくては! 散歩もあきらめるか」
急に彼女が笑顔になる。
だけど、僕はもう知っている。この笑い方は冗談だということを。だから「それで寂しくない?」なんて言うとニヒヒヒって彼女が笑う。
「寂しい。だから、待ってなさい。夏の熱い風と一緒にあたしは現れるから」
それからの日々も彼女と夕日で話す。どうでも良い話だけど、ちょっと前よりは進んでいる。
「今の俺たちって恋人?」
「違うなー。今は恋人予約。待ってくれる?」
気になったことを聞くと哀しみなんてない様な笑顔が返る。とてもこの時間が愛おしい。
段々夏休みが終わりに近付いてた。でも、そんなのは単なる区切りだ。僕と彼女にはまだこれからがあるのだから。
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