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夏が半分過ぎようとしている。僕は家の近くに有る砂浜を走っていた。思いは悪いことばかりが浮く。
「俺がわるいんじゃないのにどうしてこうならないとだめなんだよ」
疲れ切って遠くの夕日に向かって叫んだ。
こんなことをしたところで抱いている鬱憤なんて消えるはずがない。だからなのか夕日がとっても憎らしく思える。
綺麗な筈の夕日。寄せては返す波をオレンジに染めている。
僕はそれを消すように波間に歩み寄ると、蹴り上げる。水柱までも緋色になっていた。
砂浜ダッシュで疲れ、汗も流れて、かなり暑い。僕はそのまんま海のほうに歩いて涼やかな水に倒れこむ。
「どうしたのさ? そんなにヤなことでも有ったの?」
水の音に消されながらもそんな声が聞こえて、浮かびながら振り返る。
スニーカーにジーンズとパーカーという夏とは思えない格好をした女の子が砂浜に立っているのが見える。さっきの声の主らしい。
「野球。最後の大会に出られなかったんだ」
不思議な人だとも思いながら、僕は今の怒りを聞いてくれる人がいるならと思って素直に返す。
「それはー、君がヘタッピだから?」
「違う! 俺はレギュラーだったんだ。チームがリーグ戦で負けないとトーナメントになってもう一度同じ相手と戦うようになるからわざと負ようってことになったんだ」
海からあがって女の子のほうに近寄りながら話した。ちょっと僕よりも年上な落ち着いた雰囲気がある。
「それは、喜ばしくないね。それで? 反発したからスタメンを外されたの?」
「そう。監督に文句付けたら、試合には出さないって。なのにトーナメントでは直ぐに負けた」
これが僕が腹を立てた理由。それを聞いた女の子は「なるほど」なんて呟いてる。
「君の判断は間違ってない! だけど、試合に出れなかったのは残念だね。その監督が悪い!」
女の子は僕に指差しながら言い放った。それも笑顔で。
だから僕はつられて笑ってしまう。さっきまで怒ってたのが馬鹿らしくなった。彼女の笑顔がとっても素敵だと思ったから。
「そうなんだ。あの監督はヘボだから。中学からは違う。あの学校見える?」
そう言い彼女に教えるのは岬の先にある建物の横にある私立中学校。
「知ってるよ。自由な校風でこの辺では有名だね。あそこに進学するの?」
「そう! あの野球部の監督は尊敬できるんだ。誰かさんとは違う」
「ふーん、そっか。なら来年は同じ学校になるかもね」
「同じ? あそこの生徒?」
普通に疑問になったから聞く。普段の僕はそんなに知らない人と話さないのに、彼女と話していると楽しい。
「受験に落ちなかったら。あたしも、とある理由からあの学校に進学したいんだ」
その時にもう一つ疑問が浮かんで、ちょっと考えると直ぐにその答えがわかったが「水冷たかった?」と彼女が聞いてる。
「えっと? まだ温かい。夏だからね」
僕は疑問を答えられないで返答すると、彼女は走った。
海に向かって真っすぐに。それ以上に夕日に向かっているようにも思える。そして飛び込んだ。
「アハハハッ! 絶好の海水浴温度だ!」
海に浮かんでいる彼女は飛び切りの笑顔を見せてる。またあの笑顔に負けた。
「同い年なのかよ!」
さっきの疑問。僕はてっきり彼女が年上だと思ってたけど、そうじゃないと今は理解したから、彼女に向けて水を蹴った。
「だからそう教えたじゃん。君が勝手に勘違いしてただけだよー」
お返しなのか彼女は手で水を掬うと僕に向かって投げる。
宙に舞った水が茜に煌めいた。
それから僕たちは少しの雑談をしながら、子供のように水遊びを続け、暗くなるころに帰った。
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