最低な二学期の始まりと君に向けた約束

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「……わ…れたい」  彼は静かに呟いた。独白のようにも聞こえたが、あまりに小さな声だった。  私には良く聞こえなかった。  彼は顔を上げずに地面に視線を落として、再び口にした。 「宇宙人に(さら)われたい」  私に訴えているようにも聞こえた。 「攫われても何も良いことはないわよ」  私の答えに、彼は少しも振り向きはしなかった。声は届いている筈だが、動かずに身じろぎもしない。吹いた風に煽られながら彼のシャツの裾がなびいている。  良く見れば黒いズボンも、薄茶色の染みが滲んでいた。ズボンの裾も少し千切れているのか、糸が解れている。  高校の入学式から半年。彼の制服は既にボロボロだ。  白い半袖のシャツから覗く腕や手には引っ掻き傷のような痕もある。肘は紫色の痣が出来ていた。  私は意を決して声を掛けた。慎重に言葉は選ばないといけないだろう。  どうして彼が、この場所に今いるのか――。  目の前には錆びた鉄の欄干。  私よりも十センチは高い彼の身長なら簡単に乗り越えてしまえる。  もし私の呼びかけに応じずしくじれば、彼は、きっとこの先にある校庭に向かって、その身を投じるだろう。
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