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「店番中にぼーっとしてたこいつが悪い」
「いたいっ!」
「しれっとした顔でいちいち頭叩いてやんないってえな!」
「周、お前は俺の娘を甘やかすんじゃねえよ」
父さんが私のおでこを労るように撫でてくれていた自分の友人‥周さんの頭にも拳を叩き込んだ。
娘にも友人にも容赦なさすぎでしょ!!
そんなんだからこのお店ご新規さんが増えないんだよ!!暴力反対!
「おい杏、ぼーっとするくらいなら晩飯の買い出し行ってこい。冷蔵庫が空っぽだ。そんで周は店番しろ」
「待て待て待ておかしいだろ。俺、客だから客」
周さんが目元を引きつらせる。
抵抗したって無駄だって周さん。
父さんが自己中心的なのは私より付き合いの長い周さんの方が知ってるでしょ?
「‥仕方ねえなぁ。分かったよ、その代わりなんか奢れよな」
もの言いたげな目で父さんを見ていた周さんだったけど、全く譲らない父さんにとうとう折れた。
「ああ、いいぜ」
「なら行ってくるね」
「おう」
「いってらっしゃい杏ちゃん」
店の二階にある家の自室でお店の制服である着物から動きやすい服に着替え、スマホと財布、エコバッグを持って外に出る。
途端にふわっとした桜の匂いが鼻をくすぐった。
「いい匂い‥」
イヤフォンを耳につけ、桜の木が植えられた川沿いの道を歩いていく。
春の日差しが朧気な影を作り出していた。
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