第一章 - 花霞 -

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「ありがとうございましたー」 買い物を終えてやる気のない挨拶を背にスーパーを出た。 「今年も綺麗に咲いたなぁ」 イヤフォンをまた耳につけ、見事に咲いた桜を眺めながら、ゆったりとした足取りで来た道を戻る。 しばらく歩くと交差点に出た。横断歩道の信号は赤。 この交差点を過ぎればお店はすぐそこ。 ここからでも看板が見える。 【甘味処 杏屋(あんずや)】 江戸時代から続く和菓子屋で、私は父さんの跡を継ぐ為に店の手伝い‥もとい修行をしている。 暫くすると信号の色が赤から青に変わった。 一部の車の流れが止まり、周りにいた人達が一斉に歩き出す。 でも、 「キャー!!」 イヤフォン越しにも聞こえた、悲鳴。 驚いて目を向ければ、目の前には交差点を猛スピードで直進してきた大型トラック。 「え」 逃げたいのに、足が地面に張り付いて動かすことができない。
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