33 さようなら

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 なにものにも代えがたい、剥き出しの自分。 それを認め合えた関係って、なんて素敵なんだ。これほど素敵で、価値があるものはない。 (良かったね)  晶斗は、もう一度、心の中で、二人に言った。  そこに、妬みも嫉妬も恨みもない。あるのは一抹の寂しさ。それも、ほんのそよ風程度に流れてくるだけだ。時が経てば、その寂しさも去ってゆき、美しい景色の思い出だけが残っていく。 (さようなら)  晶斗は、何かと別れを告げた。  奈津を見送ってから自分が別れ上手になったと思った。晶斗は、自分を褒めたいくらいだ。 「俺たちが出たあと、お前はどうする?」と冬馬。 「あー。引っ越しする金がないから、居座るよ。先住民として」と晶斗。 「じゃあ、管理会社にはそう言っておく」と冬馬。  そうして、晶斗と冬馬は少し見つめ合ってから、お互い頷きあった。  話が済んで、冬馬と遥子がリビングダイニングから出て行こうとしたとき、晶斗は冬馬を呼び止めた。  遥子が先に行ったのを確認すると、晶斗は 「パンドラの箱は、開いたの?」 と冬馬に訊いた。 「いや。これから」 「…そっか」
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