8人が本棚に入れています
本棚に追加
1 ウチに来る?
「実は、住む場所、探しているんだよね」
と漏らした晶斗の言葉を、冬馬は聞き逃さなかった。
冬馬がこの街で働き始めて以来、久しぶりに顔を合わせた晶斗と冬馬だった。居酒屋で飲み始めて、すぐに晶斗から前述のセリフ。
転職の面接のため、冬馬の住む街に来た晶斗だった。思いのほか、先方に好印象で、ほぼ転職決定の見込みだった。
が、問題は住まいだ。
新しい職場には社員寮が無いため、晶斗は一から賃貸物件を探していたのだった。
「高いよねー。便利なところは。家賃も経費も…」
晶斗は、スマホの画面に賃貸住宅情報のページを出して、冬馬に見せた。
「うち、一部屋空いているよ?シェアハウスなんだけど」と冬馬。
「マジで?場所は?」と晶斗。
冬馬の説明で、「わぁ、新しい職場に地下鉄一本で行けるじゃん」と喜ぶ晶斗だった。
晶斗の、デジタルパーマでしっかりカールした茶色の髪が揺れる。肌のキメも細かく、小さな口はクリームでケアをしているため潤っている。
それを、冬馬はメガネの奥で見つめていた。
「ところで、こんな遠くに越してきていいのか?彼氏とは遠距離恋愛?」
と、冬馬が訊くと
「あー。あの人とは、別れちゃった」
と、晶斗は薄く笑って答えた。
最初のコメントを投稿しよう!