33 さようなら

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 晶斗が「決め手はなに?」と訊くと、 「さっきの、ナツさんの手紙。手紙に、『悔いの無いように』って書いてあった。あと『ハルコなら幸せになれる』って。『見てるから』って」 と、冬馬が答えた。 「そっか」  晶斗は、奈津が神妙な顔をして手紙を書いている様子を思い浮かべて、笑顔になった。 「おめでとう。良かったな。住まいは?ここに居続けるの?」と晶斗。 「いや。二人で暮らすところが見つかったら、出て行こうと思ってる」と冬馬。 「そっかー。僕は気にしないから、二人とも住み続けてくれていいんだよ」と晶斗。  半分は本気だった。   奈津を失い、冬馬と遥子までいなくなったら、また、晶斗は一人きりだ。寂しさで、つい、体の芯がぐらついてしまう。 (でも…)  これが、潮時なのだろう。奈津も旅立った。残された3人も旅立つときなのかもしれない。  晶斗は、冬馬の顔を見た。やけに男らしく見える。 (かっこいいじゃないか、お前) と心の中で褒めてやる。頭の片隅で、彼の体の事情がよぎるが、きっとそれを乗り越えるほどの関係性を二人は確認し合ったのかもしれない。  このシェアハウスで。  取り繕わない、素直な自分を晒して、築き上げた関係。
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