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 ひと月近く滞在していたが、ついにカーロから帰ってくるように手紙が来た。いくら王位継承権も持たない自由な王女でも不在の期間が長すぎると思われたらしい。 「もう少し安定するまでそばで見守りたかったけど、仕方がないですね」  オルディアはふと息を吐いた。彼が教えてくれている短剣の使い方は難しく、アステルはまだ安定させられていない。あとは自力で頑張れなくもないが、オルディアとしてもまだ心配らしい。 「アステル、私がこれまで指導した力は特別なもの。本当に特別なとき以外は決して使わないようにしてください。どんなに身近なひとにも軽々しく話してはいけません。ここでの日々であなたの力は格段に強くなり、研ぎ澄まされました。だからこそ、なおさら慎重に暮らしてください」 「わしがついておるゆえ、大丈夫じゃよ」  オルディアはフェニーチェをふわと撫でる。 「そうですね、私の小鳥さんが一緒ならきっと大丈夫ですね」  そう言いながらも彼の複雑そうな視線がアステルに向かう。これから待ち受ける未来がそれほど過酷なのだろうか。けれど、避けて通れない以上、進むしかない。 「魔法使い様、私は大丈夫です。だって、みんなにすっごく愛されていますから」  にっこり笑って見せると彼はふと笑った。 「そうでしたね。あなたの力は愛されるほど強くなる。そういう力です。だから大丈夫です。私も愛していますよ、アステル」  魔法使いにやさしく抱きしめられて、アステルはふと笑う。 「私も大好きです、魔法使い様」  春の陽だまりのようにほほ笑んだ彼はアステルの角にリボンを結んでくれた。 「無事に帰れるおまじないです」  彼はルベールに手を差し出す。 「ルベールにもおまじないをしてあげましょうね」  そう言って彼はルベールの角に口づけを落とす。 「元気でいてくださいね」 「おう。ありがとな、魔法使い様。おれも大好きだぜ!」  彼はふと笑って、ルベールを両手で包み込む。 「私も大好きですよ。結局あなたが何者かわかりませんでしたが、メリダに聞けばわかるかもしれません」 「わかった。姫さんのばあちゃんだもんな。聞けたら聞いてみるよ」  彼はゆっくりと頷いた。 「名残は惜しいですが、出立が遅れてしまいますね」 「魔法使い様、きっとまた会いに来ますね」 「楽しみに待っています」  三人は彼らに手を振り、魔法使いの家を発った。帰りの旅路はなんとは言えず、寂しくて、アステルとルベールは黙りがちだった。帰るのが楽しみでもあり、彼らと別れるのが寂しくもある。
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