第1話 死神少年と厠の守護者

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「どうするんだよ!お前が行こって言うから……!」 「た、倒そうぜ……」  ムジナは手に剣を持つが、その手は震えている。 「アホか!怪談におけるヒロインを倒してどうする?!」 「ヒロイン?いつからヒロインになった?!」 「いいじゃん!ほら、来るぞっ!戦闘体勢用意だ!」 「待て、ヘラ!」  先に戦闘体勢に入っていたムジナが叫ぶ。 「何だよ?」 「あれは……」  ムジナが指差した先にあったのは、びしょ濡れの服だった。  女の子用の服であり、所々破れていた。 『気付いちゃった?お兄ちゃんたち』  戦時前後の子供のような服を着た少女が楽しそうに問うた。 「思いっきりバレてますけど」 「おかしいなぁ……変装ならバレないと思ったんだけど」  ムジナが難しい顔をして唸る。問題は難しくはないが。 『そんなのじゃあバレるよ』 「そんな所に引き込んだ子の服置いてたらバレるよ」 「みんな注意散漫だねー。あはは」  事の発端の男は能天気に笑う。 「変装するって言ったのお前だろ」 「そうっすね」  そして真顔に変わるという。 「で、どうしてまたこんな事件が起こってるんだ?トイレの花子さんよぉ」  ヘラの問いに少女は悲しそうな顔をして話し始めた。 『……都市伝説のモデルとか妖怪とかは、有名になればなるほど力が強くなるの。力を過信していつもより仕事をしすぎて、目立ちすぎて倒された者もいる。物理的な力じゃなくて、自分がやるべき仕事についての力が強くなるの。……私の仕事は知ってるよね?』  少女がヘラにその無垢な瞳を向ける。  ムジナは寒気がしたのか自分の両肩にクロスした手を当てた。 「呼び出すのを試した人間をトイレに引き込むんだろ?本に載ってるぞ」 『そう。私だって七不思議の中では有名な方でしょ?』 「そうだが、自分で言うのもおかしくないか?」 『そりゃおかしいよ。でも、この力……やっぱり有名なんだよ!だって見てみてよ。あなたの今いる場所……』 「ムジナ!」  叫びにハッと我に返るムジナ。  その目にはヘラは映っていなかった。  どうしてなのか?  その答えは散々バカと言われたムジナでもわかった。 「ヘラ!どうして花子さんの個室の中に?!」 「助けて!ちょっと離して、花子さん!」 『いつも女の子ばっかり引き込んでたけど……男の人を引き込める日が来るなんてね……!』  意外に花子さんの力は強かった。力では大人顔負けのヘラでも離れないようだ。  ──これが有名になればなるほど強くなるという力なのか?  でも、どこかおかしい。  ムジナの話によれば、最近都市伝説に沿った事件が起きているという。  では、この子は本当にトイレの花子さんなのか?  しかも、人間が住む世界の怪談の幽霊が魔界にも出てくるのか?  というかなぜ、三回目のノックをしていないのに開いたのか?  ……と、そんなことを考えていると……。 「もういい!ドア、斬るぞ!」  さっき直しかけた剣を持ったムジナが目に映った。 「はぁ?!それはいくらなんでも……」 「お前、このまま花子さんに引き込まれて死にたいのか?!」 「……わかった!わかったから早くしてくれ!」 『待って!それだけは……!』 「でやぁっ!」  キィィイイン!という音を発しながら真っ二つに斬られるドア。  なぜ、変な音が出るのか?という疑問はその時は脳内には無かった。  咄嗟にヘラの腕を掴み、引っ張る。  ヘラの体が浮いた。  そのまま倒れこむ二人。  ドアが巻き起こした埃の煙が収まると、そこには少女の姿は無かった。 「……大丈夫か?」 「あぁ……ドア、斬ってよかったのか?」 「知らん。でも、そうしないと助からなかったから文句無しな」  二人が安堵の声を出していると、どこからか少女の声が聞こえた。 『ふふ……封印を解いてくれてありがとう。  これからは都市伝説、妖怪、幽霊の時代よ……感謝するわ……』 「どういうことだ?!」  ムジナが声を荒げるが、花子さんから返事が返ってくることはなかった……。
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