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「どうするんだよ!お前が行こって言うから……!」
「た、倒そうぜ……」
ムジナは手に剣を持つが、その手は震えている。
「アホか!怪談におけるヒロインを倒してどうする?!」
「ヒロイン?いつからヒロインになった?!」
「いいじゃん!ほら、来るぞっ!戦闘体勢用意だ!」
「待て、ヘラ!」
先に戦闘体勢に入っていたムジナが叫ぶ。
「何だよ?」
「あれは……」
ムジナが指差した先にあったのは、びしょ濡れの服だった。
女の子用の服であり、所々破れていた。
『気付いちゃった?お兄ちゃんたち』
戦時前後の子供のような服を着た少女が楽しそうに問うた。
「思いっきりバレてますけど」
「おかしいなぁ……変装ならバレないと思ったんだけど」
ムジナが難しい顔をして唸る。問題は難しくはないが。
『そんなのじゃあバレるよ』
「そんな所に引き込んだ子の服置いてたらバレるよ」
「みんな注意散漫だねー。あはは」
事の発端の男は能天気に笑う。
「変装するって言ったのお前だろ」
「そうっすね」
そして真顔に変わるという。
「で、どうしてまたこんな事件が起こってるんだ?トイレの花子さんよぉ」
ヘラの問いに少女は悲しそうな顔をして話し始めた。
『……都市伝説のモデルとか妖怪とかは、有名になればなるほど力が強くなるの。力を過信していつもより仕事をしすぎて、目立ちすぎて倒された者もいる。物理的な力じゃなくて、自分がやるべき仕事についての力が強くなるの。……私の仕事は知ってるよね?』
少女がヘラにその無垢な瞳を向ける。
ムジナは寒気がしたのか自分の両肩にクロスした手を当てた。
「呼び出すのを試した人間をトイレに引き込むんだろ?本に載ってるぞ」
『そう。私だって七不思議の中では有名な方でしょ?』
「そうだが、自分で言うのもおかしくないか?」
『そりゃおかしいよ。でも、この力……やっぱり有名なんだよ!だって見てみてよ。あなたの今いる場所……』
「ムジナ!」
叫びにハッと我に返るムジナ。
その目にはヘラは映っていなかった。
どうしてなのか?
その答えは散々バカと言われたムジナでもわかった。
「ヘラ!どうして花子さんの個室の中に?!」
「助けて!ちょっと離して、花子さん!」
『いつも女の子ばっかり引き込んでたけど……男の人を引き込める日が来るなんてね……!』
意外に花子さんの力は強かった。力では大人顔負けのヘラでも離れないようだ。
──これが有名になればなるほど強くなるという力なのか?
でも、どこかおかしい。
ムジナの話によれば、最近都市伝説に沿った事件が起きているという。
では、この子は本当にトイレの花子さんなのか?
しかも、人間が住む世界の怪談の幽霊が魔界にも出てくるのか?
というかなぜ、三回目のノックをしていないのに開いたのか?
……と、そんなことを考えていると……。
「もういい!ドア、斬るぞ!」
さっき直しかけた剣を持ったムジナが目に映った。
「はぁ?!それはいくらなんでも……」
「お前、このまま花子さんに引き込まれて死にたいのか?!」
「……わかった!わかったから早くしてくれ!」
『待って!それだけは……!』
「でやぁっ!」
キィィイイン!という音を発しながら真っ二つに斬られるドア。
なぜ、変な音が出るのか?という疑問はその時は脳内には無かった。
咄嗟にヘラの腕を掴み、引っ張る。
ヘラの体が浮いた。
そのまま倒れこむ二人。
ドアが巻き起こした埃の煙が収まると、そこには少女の姿は無かった。
「……大丈夫か?」
「あぁ……ドア、斬ってよかったのか?」
「知らん。でも、そうしないと助からなかったから文句無しな」
二人が安堵の声を出していると、どこからか少女の声が聞こえた。
『ふふ……封印を解いてくれてありがとう。
これからは都市伝説、妖怪、幽霊の時代よ……感謝するわ……』
「どういうことだ?!」
ムジナが声を荒げるが、花子さんから返事が返ってくることはなかった……。
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