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「世那。ただいま」 頭をふわりと撫でられた感覚がした気がして目を開けると、仕事が終わって帰ってきた彼が優しく微笑んでいた。 「おかえりなさい。瑠衣」 彼が仕事から無事に帰ってきてくれたことが嬉しくて起きあがろうとしたけれど、もう自分一人の力で起き上がることもしんどくて。 それを汲み取ってくれた彼に支えられるようにして身体を起こした。 「瑠衣。瑠衣…」 「どうしたの?今日は甘えん坊だね」 力が入らないながらも、きゅっと瑠衣の腕を掴み擦り寄るとそのままキスをねだった。 「世那は今日もかわいいね」 彼は嬉しそうに笑って私にキスを落とした。 瑠衣がくれるキスは甘くて、優しくて、ふわふわして、あったかくて幸せ。 「瑠衣と結婚して…今日で1ヶ月だね」 「うん。世那と結婚できて毎日幸せだよ」 真っ直ぐ私の目を見て話してくれる彼は、私のことをいつもどんな時も愛してくれた。 瑠衣が私の、たったひとりの最愛の人。 「私ね、今夜だと思うんだ」 「……そっか」 「ごめんね。こんな、布団で寝ているしかできない妻で。最期くらい綺麗な格好で瑠衣と過ごしたかったんだけどね、もう、無理みたいなんだ…」 病魔による身体の痛みも苦しみも、薬によって取り除いているはずなのに、死というものに向かっていくこの不思議な感覚には抗えないみたいだ。 「何言ってるの。世那より綺麗な人は見たことないよ。世那はずっと綺麗」 学校や職場では王子様と呼ばれるくらい整った顔をした瑠衣が、うっとりとした表情で私を見つめていた。 この人のこんな表情は私しか知らない。 今も、今までも。そして、これからも…。
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