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「いやあ。それにしても今日は、色んな発見があったなあ」
「ほんとだね」
私と崎下は二人きりで帰りの道をゆったり歩く。
野々華ちゃんは私たちにお礼を言って先に帰った。帰って今日のこと早く伝えたいって。来たときより笑顔の明るい野々華ちゃんを見て安心した。
それから、少しだけ勇気をもらった。
「崎下」
「ん?」
私が立ち止まると、崎下が振り返る。
好きなことを好きって言える。当たり前のことなのかもしれないけど、やっぱりそれは、すごくすごく勇気のいること。
でも、決して恥ずかしいことじゃない。好きなんだからいいじゃないって思えた。
「私、崎下のこと、好きだよ」
「……!」
夕日が崎下の後ろを照らして、いい感じに映えている。
崎下が少し口を尖らせて近づいてきた。
「ちぇっ、俺から言おうと思ったのに」
「え?」
それって。
「……何てな」
「え、嘘なの?」
「違うって。ほんとはさ、前から言いたかったけど、言う勇気がなかった」
「崎下……」
何だ、崎下も同じだったんだ。
「『好きなものを好きって言って何が悪いんだ』って言ってたのに?」
「それは、ほんとにそう思ってるよ。でもさ、ぬいぐるみと好きな奴とじゃ違うだろ?」
「ふふ、そうだね」
もう、おかしい。『好き』って言ってしまったら、こんなに簡単なことのように思えるのに、どうしてなかなか言えないんだろうなあ、みんな。
「今日はさ、俺もシャンシャンに勇気もらってたんだ」
「勇気?」
崎下が体を少し屈める。
「……好きだ、立木」
好きな人に耳元でそんな風に囁かれて、ときめかない女の子っているのかな。
「崎下、それは、ずるい……」
「え、何が?」
私は崎下の胸元に顔を預けた。夕日のせいか、恥ずかしさのせいか、どっちにしても、きっと赤くなってる顔を見られたくない。
「お、おい、立木……」
「ふふっ」
崎下ってばうろたえてる。ちょっと、面白い。
今日は本当に色んなことが知れた。前より、みんなのことが、崎下のことが、好きになった一日だった。
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