好きなんだからいいじゃない

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 シャンシャンもふり体験が終わったので今日の目的は果たした。でもせっかくだから二人で近くの喫茶店に入ることになった。  私たちはテラス席に案内された。もうすぐ夏も終わるけど、少し暑さが残ってる。  パンフレットをテーブルに広げてまだ余韻に浸ってる感じの崎下。 「いやあ、よかったなあ……。やっぱりシャンシャンは最高だー」 「崎下、すっごいもふもふしてたね」  崎下が目を閉じて口を綻ばせている。頬も少し赤らめて。さながら恋する乙女のようだ。 「でもほんとに意外だった。崎下ってかわいいぬいぐるみが好きなんだね」 「そんなに意外かあ? 俺結構家ではもふもふしまくってるぞ」  崎下が家でもぬいぐるみにもふもふ。やばい。想像しただけでかわいい。 「男の子ってかわいいもの好きっていうの、表に出すのは恥ずかしいのかと思ってた」 「んー? ああ、まあ言われてみればそうかもしんねえ。けど俺は別に恥ずかしいことはしてねえぞ。好きなもんを好きって言って何が悪いんだ?」  こうあっけらかんとして言うから、本当に何とも思ってないんだなってちょっと安心する。  こいつのこういうところが、私は……。 「……あれ? でもじゃあ何で今まで言わなかったの? ぬいぐるみ好きなんて今日初めて知ったよ?」 「俺は単に話す機会がなかっただけだよ。お前だって話してなかっただろ?」  そう言われると、頷くしかないんだけど。 「私は……、恥ずかしかったの。高校生にもなって、ぬいぐるみもふもふ体験とか」 「ええ? でも俺らくらいの年で、ぬいぐるみ好きなやつなんかいっぱいいるだろ。今日だって来てたじゃん。大人だって」 「それは、そうだけど……」  でも、少なくとも私の周りにはいない。ぬいぐるみの話題で盛り上がれたら嬉しいけど、うちのクラスの女子はみんな、お洒落な服とか髪型とか他にも化粧とか香水とか。そういういわゆる大人って感じの子ばっかりだ。  私は逆にそういうことは、ちょっと疎い。そりゃ、好きな人に会うときには服装とか髪型に気を遣うくらいの感性は持ち合わせてはいるけど、普段からって考えると、正直だるい。  ……? はっ! そう思ったら今の私の格好って、ちょっと……?  服装おかしくないかなって、自分の服を右に左に見ていたら。 「何やってんだ? 新種の踊りか?」 「は!? ち、違うわよ!」  もう、何てデリカシーのない男なの! 「だって、マジで面白かったぜ。今の、動画に撮っときたかったな」  そう言って頬杖をついて口元ニヤリと意地悪そうな目を向ける崎下。  く、悔しい……。もう、私何でこんな奴のこと……。  私は精一杯、崎下をにらんだ。  なのに、崎下ってば、急にふっと優しい目つきになって。 「……やっぱかわいいな、お前」 「……な、な!?」  なに、なに、急に。  え、か、からかってるの? 「お前はそのまんまでいいと思うぞ」  今度はニッと破顔する。  顔がカアッと熱くなる。 「か、からかわないでよ……」 「からかってねえよ。ほんとにそう思ったんだ」  今度は真面目な顔つき。  何なの? 何で今日はそんなに色んな顔を見せてくれるの? 私の嬉しいことを言ってくれるの? 「あの、崎下、私……」  何を言おうとしてるの、私……。 「あの……」  でもやっぱり口ごもってしまう。 「……あ」 「あれ、柚菜(ゆずな)ちゃん?」 「!?」  この声は……。  私は恐る恐る左を見る。 「の、野々華(ののか)ちゃん!?」
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