好きなんだからいいじゃない

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 私は目の前の光景に呆気にとられて、何も言えなかった。 「どうして、お兄ちゃんが……」 「とりあえず中に入ろう。詳しい話はそこで」  そうして私たちは中へと案内される。  長い廊下を歩く。  先頭に野々華ちゃんのお兄さん、後ろに左から崎下、私、野々華ちゃん。 「誰もいないんですね」 「ああ、イベントが終わったからね。やることもないし」  まだ整理できていないな。えっと、この門番さんはここの館長さんっぽいけど、野々華ちゃんのお兄さんでもあるってこと? 「君たちは野々華の友達?」 「あ、はい、高校の同級生なんです」 「そっかあ、野々華と仲良くしてくれてありがとうね。野々華は学校でどんな感じかな?」 「ちょ、ちょっとお兄ちゃん!」  野々華ちゃんが声を上げる。いつもクールな彼女が、こんな風に声を荒らげたりするの、すごく新鮮。まあそれはさっきも思ったけど。 「えっと、学校ではクール! って感じだな」 「ああ、うん、まあ……」  崎下の言葉に、私も同調してしまう。学校での野々華ちゃんは本当にそんな感じだから。 「やだ、二人とも……」 「へえー、クールか。家とは真逆なんだな、やっぱり」  ふふふっておかしそうに笑うお兄さん。 「ちょっとやめてよお兄ちゃん」 「ああ、悪い悪い。でもね、二人とも。この子本当にぬいぐるみとか、かわいいものが大好きでね。小さい頃はぬいぐるみがそばにないと眠れなかったんだよ」  楽しそうな声。でも野々華ちゃんは顔をしかめている。 「だったら何でさっきは追い返そうとしたんだ?」  崎下が少し刺々しい口調で聞く。まあ、確かに。 「ああ、あれは野々華の気持ちを確認したかったから、かな」 「確認?」 「今日のイベントもさ。来るかなどうかなってちょっと心配してたんだ。でも結局野々華来なかったろ? そんなに来るのが恥ずかしいのかなって……」  お兄さんの言葉に、野々華ちゃんが顔を俯かせる。  お兄さんが立ち止まった。扉があった。ここにシャンシャンが?  お兄さんが鍵を開ける。  少し大きめの扉を開く。 「さあ、中に入って」  私たちは促されるまま、中に入った。
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