地面の下のゴートン

1/4
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ

地面の下のゴートン

『もう貴方にはうんざりなの。いつまで、愚かな夢ばっかり追ってるつもり?付き合わされるあたしの身にもなって!』  妻はそう言って、私の元を去った。  仕方ないと言えば仕方ない。この世界の謎を解き明かす。太古の昔に存在したという魔法の実在を証明する。――そう決めて、大学卒業後研究を始めて十年以上。結局芽が出ることもないまま、バイトで稼いだお金も、妻の貯金も湯水のように消費されて消えていく。最初は私の夢を応援して支えると約束してくれた妻も、愛想をつかすには十分な時間だったのだろう。  四十代。妻は去り、子供もいない。  建て替えることもできない研究施設で、少ない研究員たちの給金さえままならない。一体自分は何をやっているのだろう、と私は椅子に座って天井を見上げた。妻が去ってから三日。このままぼーっとしていても解決しないことは、自分でもわかっているのだが。 「カイル博士、落ち込まないでください」 「ギルバート……」  紅茶を入れてくれたのは数年前からこの研究所に勤めてくれている助手のギルバートだ。まだ二十代。しかし非常に聡明で誠実。私の研究において、なくてはならない存在と言っても過言ではない。  むしろ彼がいなければ、マージナルタウンの遺跡についても、コレッタ鉱石についても、そのほかもろもろ解明できなかったことはたくさんあるだろう。そう、私の研究は何も、まったく進展がなかったわけではないのだ。ただ、国から支援金を貰えるほどの大きな発見がなかったというだけで。 「……国は防衛力強化のために、魔法の力の解明を求めている。古代に存在した魔法兵器を復活させることができれば、諸外国の脅威から国を守ることもできるだろう、と。だから、それを見つけさえすれば、間違いなく国から膨大な予算がもらえて、私の名も認めて貰えるんだがなあ」  紅茶のカップを受け取りながら笑う私。 「魔法文明が失われて千年。目ぼしいところは探し尽くした。目星もなければもう、遠くの遺跡を探索・発掘するだけの予算も残っていない。本当に、どん詰まりだよ」 「諦めるのは早いですよ、博士。まだ探していないところがあるじゃないですか」 「探していないところ?」 「灯台下暗しです。うちの研究所の敷地を掘ってないじゃないですか」 「ぶっ」  思わず吹き出してしまった。著名な遺跡、町、山。そういう場所を散々発掘した挙句、まさかこの研究所の庭を掘り返してみようなんて言い出す奴がいるとは思ってもみなかったからだ。  しかし、ギルバートの顔は真剣そのものだった。どうやら本人は大真面目に、ここの庭に何かあるかもしれないと思っているらしい。 「博士の挙げた候補の方が可能性が高いと思って黙ってたんですが。よくよく考えてみれば、この研究所のあった辺りにも、大昔に町があったことがわかっています。二百年前の空襲で焼け野原になってしまって残っていませんが……それまでは、他の遺跡よりもっときっちりした古代遺跡として原型を留めていたことも」 「それは、そうだが」 「大きな街ではなかったのは確かです。でも案外こういうところに、掘り出し物が埋まっていたりすると思いません?」 「ふむ。まあ……一理あるか」  どうせ、遠くに出張したり、ショベルカーや掘削機を持っていくようなお金はないのだ。ならばダメ元でこの研究所の庭でも掘ってみるか。私は半笑いで、そう答えたのだった。  だが、この判断が大正解だったのである。  この三日後に始めた掘削作業で、早々に私達は大発見を成し遂げることになるのだから。――そう、古代兵器の魔導巨人、その腕と思しきものが見つかったのである。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!