猫の大冒険

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 いつの間にやら辺りは暗くなって、猫は冷や汗をかいた。あちこちの家からは、美味そうな料理の匂いが漂ってくる。猫の腹も、ぐうと鳴った。虚しくなって、無意識に人家の明かりを避けるように歩いた。が、どうしても人の住まない所を見つけようと思う方が、難儀なこの街である。猫は段々苛立ちを募らせた。  早足でとことこと行く。自分を好奇の目で見ている人間に気がつく。人間は立ち尽くして、猫の動きをじいっと目で追っているのだった。猫は気味が悪くなって、その目の前を颯と通り過ぎた。  ふと、あの人間に、何か食料でもねだってみようかという考えが起こった。それで、ちょっと振り返ってみると——その人間がもうすぐそこにまで迫ってきている。近くで見ると、家のチビたちよりは少々年上の女子である。さっさと逃げ出してしまった。  まさか追っかけてきていやしないか、と心配して走ったから、やっと振り向いて安心したのも束の間、余計に緊張して動いたせいで、どっと疲れが出た。もう辛抱ならない。ぐったりしながらとぼとぼ歩いていると、すぐ背後をまた『四角い箱』が間一髪で通り過ぎていった。性懲りなく、轢かれそうになったのだ! いつか、あの奇妙な円形の『足』に踏み潰されて死ぬんだろうなと思った。  ふと、猫が目に留めたのは、植え込みの土を這い回る蟻である。どうやらそこら辺に巣があるらしく、コンクリートの地面を群れをなして動いている。——もはや是非も無かった。舌を伸ばしてその小躯を数体、一遍に掬い上げた。生きてそれが舌の上を蠢く感触に身の毛をよだたせながら、どうにかして潰してしまって、食った。ちっとも、足しになった気がしなかった。だからまだ食った。巣まで掘り返して食った。食った、といえるだろうか? 呑んだと言う方が適切かもしれない。猫は、暫く夢中だった。
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