猫の大冒険

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 気がつくと、猫はまたあてどなく歩いていた。ただ、歩く。俯きながら、無心を装い、しかしやはり変化を期待して。  向こうに小さく広場が見える。猫は半月型の黒い眼を細めて、そちらへ段々近づいていった。これにはどうも、見覚えがある。……そうだ! 木々に囲われた、この広場の片隅に力無く蹲っていたところを、自分はチビに抱き抱えられたのである。  良く良く匂いを嗅いでみる。少々気持ちが昂って、数メートル駆けると猫は確信する。不意にも、自分は帰ってきたのだ! 随分唐突な話である。だが唐突だろうがなんだろうが、猫には構わなかった。とうとう一目散に駆け出して——今日人や四輪に驚かされた時よりもずっと速く駆けて——いよいよいつもの門口にまで辿り着いた。  しかし、ここから猫は不可思議な行動をとる。まずは何事も無かったかのようにのんびりと入室し、おかんに抱き抱えられ濡れタオルで四足をいじられた。そうしてまた鷹揚に居間への入場を果たす。次は何食わぬ顔で爺ちゃんのあぐらに飛び乗ると、常の如く、その中であっという間に眠りこけてしまったのだ。  家族の誰も、今この猫が大冒険を遂げてきたばかりなのだとは夢にも思うまい。
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