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「いきなり明日から試合だといってもそれはまた酷だろう。何もしていなかった者もいるだろうからな。身体が動かないところに無理をして怪我でもされては困る。選考会は四月末から五月にかけての連休中に行うことにする。それまでは通常の稽古をして各自身体を慣らしておくように」
「はい」と部員は答えたが、道場内の空気はすぐにざわついた。
女子剣道部員は、部活の再開を喜んだのもつかの間、これから始まる総当たり戦に備えてなのか、皆さっさと着替え、会話もそこそこに、さあっと潮が引くように帰っていった。
今、部室に残っているのは、女子主将の木場沙也加と副主将の清水加奈二人のみである。
「沙也加あ、どうする」
加奈が頬を膨らませて言った。
普段はよくしゃべりよく笑う、どこにでもいる陽気なかわいい女子高生なのだが、面を着けると人が変わるのだ。華奢な身体つきだが、どこにそんな力があるのかと思うほど連続して打突を繰り出してくる。これでもかと打ち込み続け、相手を仕留める。
去年までは軽い性格で、いい男を見つけるたびにふらふらとなびいていたが、三年生になった途端に落ち着いた。沙也加にその理由はわからない。本人にも確認はしていない。たとえ訊いたとしても「なにが」ととぼけられるのがおちだからだ。それでもくるくると独楽鼠のようによく動く黒い瞳は相変わらずだった。
「どうするって」
木場沙也加は気の入らない言い方で問い返した。
「自信、ある?」
「あるも何も、やるっきゃないじゃん」
「そうなんだけどさあ」
「加奈は何かあるの」
「面倒くさい。それだけ」
ははは、と沙也加は空笑いした。「加奈は面倒くさがり屋だもんね」
「そうなのよ」
選手に残る自信があるということかと沙也加は理解した。
「でも、男にはマメだよね」
えーなにそれ、意味わかんない、と照れたようにそっぽを向いた。
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