第二章 卯月

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「去年は島津に熱上げてたもんね」  鹿児島からの転校生島津大陸(しまづたいりく)のことだ。今彼は転出してしまい、北新高校にはいない。  去年、北新高校剣道部は島津率いる男子対沙也加率いる女子という名目で市民大会で対決することとなったのだが、加奈は途中で女子を裏切り島津を追って男子側についたのだ。  肌が浅黒く、細身で精悍な感じがして会話も上手い島津は地元にはいないタイプで、女子に人気があった。加奈もご多分に漏れず入れ込んだのだ。 「それは言わないで」  あの時はどうかしてたのよ、もうあんなことはしません、と舌を出す。 「それより大丈夫? ブランク」沙也加が訊いた。自信があるからには何か根拠があるのだろうと探ってみたのだ。 「それなり。やれるだけやる。練習停止期間、何もしてなかったわけじゃない」 「沙也加、太った?」 「え」突然予期していなかったことを言われ、沙也加は戸惑った。 「なんっか、違うよ。学校で見かけている分には変わりなさそうだったけど、道場で見ると、違ってた。身体がひと回り大きくなった気がしたよ。部活のない間ずっと食べてたとか?」 「食べる量は多くなったかも。でも太ってないよ」 「うん、そう、そんな感じ。でもなんだろ。変わったよ、沙也加。女っぽくなった」 「え」  あっという間に顔が熱くなった。  まさかそんなことを言われるとは考えてもいなかったからだ。ごつくなったとか、角ばってきたねとか言われるなら覚悟はしていたが、まさか女っぽくなったと言われるとは。 「あ、彼氏できた?」  違う違うと沙也加は全身で否定した。汗が出てきた。 「冗談だよ、沙也加が男を優先するなんて考えられないもんね」  ひひひと加奈は冷やかす。 「もう、からかわないでよ」 「でもやっぱり変わったよ。頬がふっくらしてきたし、肩巾ががっしりして逞しく見える。着替えのとき誰も気づかなかったのかな、わたしもだけど」
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