第二章 卯月

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「そんなこと言うの、加奈だけだよ」気にしないでと沙也加は視線を逸らした。顔だけでなく首から肩にかけても熱くなってきた。背中を汗が流れた。  着替えるとき皆とタイミングをずらしたつもりだったのに、見られていたと思うと心臓が波打った。気を付けなくてはと思い直した。 「とにかく頑張ろうね」と微笑んだ。 「沙也加は自信あるの?」 「それなりに練習はしてた。あとは全力」事実だけ手短に言った。  そつがないよね、と加奈は真顔になった。 「試合、楽しみにしてるね」と沙也加。 「って、明日からまずは一緒に稽古です」 「そうでした。よろしく」  加奈に指摘され、沙也加は動揺していた自分に苦笑した。  北新高校剣道部女子は、全部で十五人いる。何故か各学年五人ずつだ。  総当たり戦だと十四回戦わなくてはならない。  三年生のことは、手の内がだいたいわかる。負ける気はしない。  二年生もこの半年は何もしていなかった者はいるはずだ。技能が向上した者もそんなにいないと思う。  だから沙也加は、一年生が要注意だと感じている。  二三年生が練習できなかった間、一年生は中学生だった。稽古のできる環境にいたからだ。  それに、一年生は、負けてもともと、勝てれば儲けの精神で向かってくることは目に見えている。  一緒に稽古もしていないから手の内もわからない。  だから、実績のある一年生、大垣歌恋(おおがきかれん)と谷川かすみには特に注意が必要と感じている。  大垣歌恋は中学県大会団体戦三位、谷川かすみは中学県大会個人戦で優勝している。  二年生では谷川早霧(さぎり)が抜け出ていた印象があるが、去年の印象では打ち崩せない相手ではない。とはいえ中学県大会個人戦優勝の実績があるし一年生の谷川かすみの姉である。気は抜けない。  沙也加は、明日からの練習が楽しみであり不安であった。
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