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だから、今がんばれという思い掛けない父の言葉に菜々子は感謝した。父は常に厳しい目で自分を見ているとしか思っていなかったのだ。
「これを使ってみろ。お前にはまだ早いかもしれんが、選手になりたいのならやってみる価値はあるだろう」
父から漆黒の鞘に入った日本刀を渡された。家宝として床の間に飾ってあるものだ。真剣である。
戸惑いながら菜々子は、両手で、拝むようにして受け取った。
「とにかく、毎朝これで素振りをしてから学校へ行け」という。
太刀筋が甘いとまっすぐ振ることはできないというのだ。
「いいの? この刀、家宝でしょうに」
「飾りものではないのだよ。これは使ってなんぼのものだ。家の者のために役に立ってこそ宝だ」
父は笑った。
恐る恐る抜いてみた。引き抜くことすらやっとだった。
「重いね」想像以上に重かった。構えたとしてもその姿勢を維持することは難しかった。
「いちおう、胴田貫という名前がある。振れるか」
「やってみる」
「ん。毎朝、まずは百本、だな」
奈々子は黙って頷いた。
翌朝から菜々子は、毎朝真剣での素振りをしてから登校した。
これまでは、放課後になると、部活か生徒会かと葛藤していたのだが、朝に素振り、放課後は生徒会ときっぱり振り分けられたことで、菜々子はどちらにも集中できるようになった。
菜々子には、同学年部員の中に、親身になって話せる仲間はまだいない。生徒会に顔を出してからの稽古なので、稽古には遅れて参加が常だったし、学校行事の打ち合わせのために稽古を早く切り上げることもしばしばだったから、皆に与える印象もよくはない。第一ゆっくり話す時間がない。
したがって、菜々子の本質を知っている者は少ない。二年生、一年生となればなおさらだ。
今回は総当たり戦。全員と戦う。
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