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第三章 卯月の二
一
総当たり戦で選手を決めることになったと沙也加は母に話した。
父親の壮介はテレビに夢中だ。
が、聞いていたらしく「そりゃあたいへんだな、何試合やるんだ」と顔はテレビに向けたまま壮介が言った。
「ん、と、十四試合、かな。全部で十五人いるから」
「げ、結構な数だな」思わず振り向いて沙也加を見た。
「知らなかったの? ウチ、女子は各学年五人ずついるんだよね」
「ちゃんと数えたことないよ。はあ、体力、持つのかよ」
「あのね、一日でできるわけないっしょ、ゴールデンウィーク一週間かけてやるんだよ」
「なんだ、そうか」
「ちょっと考えたらわかると思うけどなあ」沙羅は横目で壮介を見る。
「どうしたらいいかなあ」
思案顔の沙也加に壮介が言った。
「練習するしかないだろう。考えられること、できることをひたすら練習して本番に臨む。これしかないと思うよ」
「え~、それってみんな考えてると思うんだけど」
「だから、あとは中身の問題だって。枠は同じでも内容だよ。どのくらいが己の限界かって、どこまで頑張れるかって、執念というか、執着心というか、そこのところのとらえ方が結果に出ると思うんだが」
ま、これまで何もしてこなかったわけじゃないのがせめてもの救いだな、と壮介が呟いた。
沙也加は壮介を通じて学校周辺の区域外の警察署を前田から紹介してもらい、剣道の稽古をしていた。
「沙也加はどう考えてるの」母の沙羅が訊いた。
「やっぱり、学校での稽古のほかに、稽古」
「そう」と沙羅。
「だな」と壮介。
「でもさあ、また遠くまで行くの? 週に二回か三回の練習じゃあ間に合わないんだよね、総当たり戦が始まるまで二週間もないんだからさあ」
「今度は練習解禁になったんだ。地元でもいいだろ。前田先生に訊いてみる」
「なんか、世話になりっぱなしだわよね」
「とにかくこの際だ、頼れるものは何でも頼ろう、かわいい子には旅させろっていうじゃないか」
「どういうことよ、意味わかんない」沙也加は眉根を寄せる。
「甘えましょうか」沙羅は肩をすくめる。
「ま、返事をもらってからだ」
沙羅と沙也加は頷いた。
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