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もっともそのトレーニングの内容は剣道を意識しているらしく、去年市民剣道大会に出場した際は、何年かぶりに竹刀を握ったはずなのにそれなりの動きができたのは、このトレーニングの成果なのだろうと沙也加は思っている。
沙也加は、母からの誘いに、何もしないでいるよりはと首肯した。
ただ、剣道部が活動停止状態なので、大っぴらに出入りすることは避けたかった。どこで誰に知られるかもわからないのだ。
個人としてのトレーニングだと言えば許されるかもしれないが、面倒は避けたい。秘密のトレーニングにする必要がある。
このことを相談すると、小夏がジムのオーナーに話をつけてくれた。ジムのオーナーは、小夏と中学の同級生だったのだ。
ジムを使用するのは週二回、休館日と、営業終了後ということになった。沙也加は母と小夏に感謝した。
父の壮介にこのことを話したところ、「俺は元スポーツジムのインストラクターだぞ、忘れてもらっちゃ困るなあ」と口を尖らせた。
「いつの話をしてるのよ」沙羅は一喝した。
「あなたはもう何年もトレーニングはしてないでしょうに。それに、あの頃はインストラクターがあなたの仕事だったけど、今は違うのよ。別に仕事があるのよ。そこのところを理解してね」
父は鼻息を荒くし反論した。「基本は変わらないよ。トレーニングなんて、平たく言えば活動栄養休養のバランスをとることだからね。時代が変わっても、同じことを視点を変えて言っているだけさ。それをさも新しいことですって披露しているだけだよ、お客さんは、これが最新の、とか、こればトレンドですっていうと、そうなのって目を輝かせて乗ってくるからね」
たしかに、と母は頷いた。
「でもさあ、女子三人の中に男ひとり、入るつもり?」
沙羅に言われて壮介は「う」と怯んだ。
「剣道に特化したトレーニングなのよ、ついてこれるの?」
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