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 谷川早霧とかすみの姉妹は、父が務めている会社が借り上げている一軒家に住んでいる。  二人は炬燵に入りながら、テレビもつけずにぼそぼそと話し合っていた。  四月も半ばに入るというのに夜はまだまだ冷える。 「かすみ」炬燵に両手を突っ込んだまま早霧が言った。目の前には封の切られていないカップ麺が二つ並んでいる。 「なに」かすみはリスのようなくりっとした丸い目を早霧に向けた。 「風がこっちに吹いてきたかも。選手になれるかもだよ」 「うん、わたしもそう思う。お姉ちゃん、頑張ってね」 「でも、あんたにも手伝ってもらわないと」 「なにをすればいい」  早霧は、うんと頷いてから「援護射撃」と言った。 「誰を撃つの?」 「全員は無理だから、わたしよりも強い相手の弱点とか癖とかを調べて。二人で情報をすり合わせて攻略する。とりあえずは三年生」 「わかった」 「特に見ていてほしいのは、菜々子先輩」 「菜々子先輩?」 「生徒会副会長。なんっか、掴みどころはないのよ」 「ふうん、頭、いいからかな」 「去年はねえ、練習には遅れてくるし、早く帰るし。しっかり稽古していないからさあ、あの人の剣道っていうものがよくわからないのよ」 「練習が足りないんじゃ、あまり警戒しなくてもいいんじゃないの」 「そうかもしれないけど、しぶとい感じがするのよね」 「そうなの?」
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