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「普通だったらさあ、生徒会副会長になったら剣道部は辞めるでしょ。退部しないで両方掛け持つなんて、かなり芯の強い人だと思うんだよね」 「わたしだったらどっちかにするよ。籍だけ置いといて選手は諦めるとか」 「でしょ、でもね、あのとき菜々子先輩、目が光ってたのよ。やる気満々って感じだったの。だからよく見ててね」早霧は楽しそうに微笑んだ。 「うん」 「練習がなかった時期も、自主トレはして来たんだ。皆よりは身体は動くはず。カンもはたらくはず。そう信じる」 「そうだよ、お姉ちゃんは頑張ってんだ、勝てるよ」  ん、と早霧は強く頷く。  その時、薬缶が勢いよく音を出した。 「あ、お湯、沸いた」カスミが立ち上がった。 「食べよ食べよ」  谷川姉妹には、選手にならなくてはならない理由があった。  二人の父、谷川直也は、今、怪我をして入院している。作業中に高所から転落し、踵の骨を折った。全快には、少なくとも四カ月から半年かかると言われている。  二人に母はいない。早霧が中学生になった春に、地道に真面目に働いても一向に上向かない生活に嫌気がさしたといって家を出て行った。五年前のことだ。  以来父は寝る間も惜しんで働いた。娘二人に不自由はさせないとがむしゃらに働いた。  朝出勤し、帰宅は夜中。昼の仕事と夜の仕事を掛け持ちする生活を続けた。  姉妹も父の気持ちに応えるように頑張った。  早霧とかすみは母への恨みを晴らすかのように剣道に打ち込んだ。  ふたりとも大きな大会で成績を残し、それぞれの時代で中学剣道界で名を知られるようになった。姉妹はスポーツ推薦で北新高校へ入学することができた。  もっとも姉の早霧が入学してから半年で部活は休止となってしまった。部員の不祥事が原因である。
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