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 早霧はろくに練習もできないまま一年生を終えた。  ただ、選手になりたいと強く思っていたので、何かしなくてはと模索した。  基礎体力を底上げすることが必要と気づき、とにかく走ることにした。  妹のいる中学校まで走って迎えに行ったりもした。そしてそこで稽古をするようになった。  中学の剣道部部長先生が気を利かせて稽古をつけてくれたのだ。  やがて妹のかすみの北新高校入学が決まり、早霧もようやく半年ぶりに部活が再開できる、姉妹で剣道ができると喜んだ矢先、父が怪我をした。  右踵の骨折。全治四か月。  生活費を父の収入のみに頼っている谷川姉妹は、これからどうやって生きていけばいいのかと不安に駆られた。  かすみはともかく、自分は休学してアルバイトをして暮らさないといけないかもしれないと覚悟した。  そこへ父の勤めている南浦(みなみうら)工業社長の南浦大作が、療養と生活の面倒を見てやると言ってきた。二人は喜んだ。南浦に感謝した。  しかし南浦は、面倒を見てやるかわりに、お前たちは北新高校の選手となり、試合では負けるのだぞと言ってきた。三ツ森高校と北新高校が対戦したときはもちろんだが、三ツ森高校と対戦するしないにかかわらず、選手となり、大会に出て負けろというのだ。  なぜそんなことを言うのかと姉妹は考えた。
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