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すると、南浦大作の娘も剣道をしており、三ツ森高校の三年生であることを思い出した。娘は北新高校に勝つことを願っているのだといつだったか父から聞いたことがあったのだ。
南浦大作自身も荒磯高校時代、北新高校に一度も勝てなかったらしい。北新高校に対して恨みに近い思い入れがあるのだろうと姉妹は判断した。
それって八百長じゃん、とかすみは声を荒げたが、早霧は、父の入院費を支払ってもらえるならと承諾した。
アルバイトに追われ、疲弊した生活になり剣道もできない。そんなダメダメの人生になるよりはと早霧は考え南浦の要求を受けたのだ。
たとえ自分たちが選手で出場し負けたとしても、北新は、チームは簡単には負けないはずという思いもあった。
早霧は、それにしても、こんなことをして南浦の娘が喜ぶのだろうかと首を捻った。
悲壮な決意で臨んだ剣道部活動再開の日。
監督から、全員総当たり戦を行い、その結果をもって選手を決定すると言い渡された。
目の前が明るく開けた思いをした。二人は興奮し、部活が終わると一目散に家へ帰ってきた。
なんのことはない。選手になるためには、試合に勝てばいいのだ。
かすみと協力すれば多少は有利に事を運ぶこともできよう。望みが叶う可能性はぐんと上がる。
「かすみ」
「なに」
「風がこっちに吹いてきたのかもしれない。選手になれるかもしれないよ」
かすみはリスのようなクリっとした目を動かし、「うん」と頷いた。
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