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沙也加を待たずに壮介は、かくかくしかじかとこれまでの経緯を簡単に説明した。
「ということで、ウチの子も混ぜてやってくれ」
壮介に促された沙也加は「よろしく」とぶっきらぼうに挨拶した。
藍染の剣道着と袴に身を包んだ沙也加は、阿仁川工業男子部員に混じると見分けがつかないくらいの体格になっている。
「はい、わかりました」
いいよな、というように旬が振り向き仲間を見た。
もちろん、という表情で彼らは頷く。
「やです」
歓迎ムードを漂わす空気を断ち切るように、男子部員の後ろから、女性の声が聞こえた。
沙也加が声のした方向に目をやると、川添真紀がいた。
真紀も藍染の剣道着と袴を身に着けているが、沙也加よりは小柄で身体に丸みがある。
男子たちは一斉に声の主に視線を集中させた。
「なんでだよ」不満を露わにした声だった。
「こいつとは大会で戦うんだ。今から一緒に練習したらこっちの手の内がばれちゃうじゃないか」
「おまえ、そんなせこい人間じゃないだろ、いいじゃんか。手の内なんて、お互いさまだろが」
「俺じゃない。俺はどうということない、お前たちのことだ」
「はい?」
「単純なお前たちの以後気をこいつに覚えられたら、こいつの学校に筒抜けだろうって言うんだ」
「そんなことを気にする俺たちじゃない、利用したいんだったら利用すればいいじゃないか。それに、俺たちはもう練習終わりだぜ」宇津井がいいかげんにしろと言いたげに声を出した。
「俺たちのことは参考にならないぜ、たぶん」
「ばかやろ、自信もって言うんじゃねえよ」
そうそうと皆頷く。同時に笑い声も上がった。
「わたしは男子に言ったりしないよ。そこまでうちの男子とは仲が良くないもの。わたしのことだったら心配ご無用。手の内でも何でも見せてあげます」
挑発的な言葉に真紀はむっとした顔をした。
「何でも、見せてくれる?」
好奇の視線を沙也加に向ける男子の垂には「奈良岡」と書かれていた。いかにも調子がよさそうな態度が感じられる。沙也加は奈良岡をぎろりと睨んだ。
真紀も睨んでいた。
たじろぐ奈良岡。
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