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攻めあぐねていると、あっという間に攻め込まれた。とにかく竹刀を払って前に出て行かないと攻め込まれた。
こちらの動きを無視するようにぐいぐいと竹刀が間合いを破って入って来るのだ。対処しようとしたときにはすでに遅く、面、突き、小手と打ち込まれてしまうのだった。
阿仁川工業の部員たちも攻め込まれ、突かれ、壁にたたきつけられていた。
「相手の構えを崩すのだ。闇雲に打って出たとて相手の餌食になるだけだ。相手を、構えを崩すことを考えろ」
とはいうものの、相手だって打ち込もうとしているのだ。こちらの思い通りになど動いてくれるはずもない。
(相手の硬い構えを崩すにはどうしたらいいのか)
沙也加たち高校生は笹渕を攻めあぐねるばかりだった。
警察署での稽古を始めて数日経ったころ、
「楽しそうだね、わたしも混ぜてよ」
今度は女性警察官がやってきた。
剣道着に身を包んではいるが、しなやかで張りのある身体つきということはすぐにわかる。ややたれ目で愛嬌のある瞳は栗色で、包容力のある女性に見える。
阿仁川工業の男子連中の視線が釘付けになった。
(飛鳥先輩!?)
沙也加はあ然とした。
寺内飛鳥は北新高校剣道部のОGであり、沙也加の一年先輩で男子キャプテンだった寺内翔一の姉である。
今は県警の代表として女性警察官の剣道大会に出場している。昨年は女性警察官の東北大会で優勝した。
思いもかけない稽古相手が来てくれ、沙也加の胸は高鳴った。
周囲に安心感を与えてくれる寺内飛鳥は、いざ竹刀を交えると人が変わったように打ち込んでくる。
「何やってんのよ、まだ倒れるのは早いわよ」とか「ほらほら、まだ動けるでしょう、かかって来なさいよ」と攻め立てる。まるで相手を嬲り倒す女王様だ。
傍らの笹渕は苦笑するばかり。止めようともしない。
阿仁川工業高校の男子連中も顔色を失った。
憧れていた先輩の本性を目の当たりにし、沙也加は足をすくませた。
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