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「い、いやあ、まあ、やめとく、か、な」
たたみかけるような質問に父壮介は言葉に詰まった。
そうしたほうがいいよ、じゃあ、お父さんは仕事に専念してくださいと沙羅が話を終わらせた。
しかしその数日後、壮介は「俺も考えたぞ」と子供が珍しいものを発見したときのように目を輝かせて言った。
筋トレもいいが、やはり剣道の実践練習は必要だ、でもそれは地元では難しい。
だから隣町の警察署で剣道の稽古ができるように段取りしてきたというのだ。
「遠いじゃないのよ、どうやって通うのよ」
「俺が送るのさ」
「は」
「稽古に出向くのは俺の仕事がない日。週に二、三回ってところだけど、やらないよりいいだろ」
壮介の仕事は警備員である。仕事は朝から翌朝まで。週に二日か三日は非番となり、身体が空くのだ。
「そりゃあ、まあ」「ねえ」
沙也加と沙羅は曖昧に頷いた。
警察署での剣道の稽古に関しては、小夏の親戚で以前警視庁で剣道指導に関わっていた前田恭一に間に入ってもらい実現したらしい。
前田は現在、嘱託員として県警各警察署員に剣道を教える立場にある。剣道の稽古に関しては全面的に影響力のある人物なのだ。
その前田は、一時期壮介とともに警備員として勤務していたという縁がある。知らない仲ではないのだ。
かくして沙也加は、週に二回の筋力トレーニング、二回ないし三回警察署で剣道の稽古を行うことになったのである。
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