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菜々子はかすみの誘いになかなか乗ってこなかった。時間切れギリギリになり、業を煮やしたかすみが面を打ち込んだところを、菜々子は受けると同時に切り返した。かすみは胴を決められた。
「すごっ」
「なにあれ」
春姫と理奈が思わず声を上げたほど、凄まじく切れのある返し胴だった。
「これじゃあ菜々子には、迂闊に打っていけないじゃない」
「打たないと勝てないじゃない」
「引き分け狙いかあ」
「引き分けること、できるの」
「わかんない」
戦った当人のかすみでさえ菜々子の返し胴には驚愕していた。
強烈だったのだ。受けられたと思った瞬間に返されたのだ。打たれた刹那、衝撃が脇腹に響いた。防具なしに直接バットで叩かれたような痛さだった。
「ドンマイ、かすみ、ありがとう。菜々子先輩の剣道がわかってきたよ」
「わたしの試合を参考にしてお姉ちゃんが勝てればそれでいいよ、がんばって」
かすみは脇腹の痛みをこらえながら言った。
谷川姉妹は毎日情報交換をし合い、対戦相手の研究に余念がなかった。
その結果、姉の早霧は上位に残ることができる見通しが立った。
須藤春姫は後半に入り、勝ち星を伸ばした。怒涛の五連勝である。
「理奈あ、頑張りなさいよ、三年生なんだからね」
「わかってるよぉ」
返事はしたものの、春姫の躍進に圧倒されたのか、小田原里奈には最早三年生の意地とかプライドとかは、見られなかった。
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