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 加奈から冷やかし気味に言われ「そんなことない、必死だったもの」と菜々子は謙遜する。 「相手に切り返す速さ、打突をさばく鋭さは群を抜いていたよ、半年の間、かなり練習したでしょ」  沙也加に言われ、この子はやはりすごいと菜々子は感心した。  藍染の道着に隠された菜々子の両腕は、六か月間真剣の素振りで鍛え上げられ、男子の腕と見紛うほどに発達した。返し技の太刀筋は、これも真剣で練り上げたものだ。  しかし技術だけでは勝ち上がれない。菜々子が勝ち上がれたのは、寝る間も惜しんで相手の研究に没頭してきた成果があったからだ。  菜々子は内心「とにかくよかった」と安堵した。 「これで地区大会の選手が決まった。だが、これまでの経緯を見てもわかるように、皆実力は紙一重だ。これからの稽古次第で選手が交代する可能性は十分あるからな、県大会まで気を抜かないように」  小松田監督の言葉に沙也加たちは「はい!」と大声で応えた。 「え、このメンバーで県大会まで行くんじゃないの」囁くような声で矢島聖羅が谷川早霧に言った。 「何言ってんのよ、聞いてなかったの? 調子が悪かったら容赦ないのよ、小松田監督は」隣にいた須藤春姫が目を細めた。「隙があったら引きずり落とすわよ」と聖羅に微笑む。  聖羅は「がんばります」と殊勝な態度を示した。  マジで気ぃ抜けないんだからね、と加奈が誰にともなく呟いた。
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