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「慣れないうちは無理しないこと。慣れたからといって無茶はしないこと。地道に続けることが大事なのよ」  小夏からきっぱり言われ、沙也加は素直に頷いた。右も左もわからないのだ。それに、格闘家と見まごう体格の小夏から言われたら従うよりない。 「大丈夫、自分にその気さえあればなんとかなるのよ」まるで沙也加の心を読んだかのように、小夏はあっけらかんと言う。  ただ、焦らないでね。無理しないで徐々に負荷をかけることが大事だからとも言われた。 「いきなりあれもこれもなんて欲張ったら身体によくないのよ」  小夏に言われたスクワット、ベンチプレス、バックエクステンション、クランチを、時間をかけて各3セット、ランニングを混ぜて二週間行った。  その後は徐々に種目を増やしていった。ダンベルを竹刀に見立てて素振りの練習も始めた。  同年代の女子高生と並べば上背もあり、それなりに発達した沙也加の身体ではあるのだが、母たちと並ぶと引け目を感じざるを得ない。  どこがと言われれば、全部だ。すべてが細かった。これから成長していく途上であるにしても、違い過ぎた。  小夏の肩はバンと張り出し、胸も厚い。腰から太腿にかけてはいかにも頑丈そうで安定感がある。  髪を後ろで束ねた小夏は、にこやかに笑みをたたえながら言った。 「はじめは太腿とか背中とか大きな筋肉から鍛えるのよ。鍛えるというのは、刺激を与えること。マシンを使ってひと通りの動きを覚えたらフリーウエイトに移るからね」  何も知識のない沙也加は「はい」というしかない。それぞれの動きを小夏から教わる。  母は何をしているのだろうかと視線を巡らすと、沙羅は既に自分の世界に没入していた。沙也加のことなど意に介していないように、フリーウエイトのコーナーでダンベルを上げ下げしている。
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