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道場を出ようとしていた沙也加は、加奈に声を掛けられ振り向いた。
他の部員は皆帰った。戸締り担当の男子部員が道場内の点検をしているだけだ。
「来てたよ」
「ほんとにぃ?」
加奈は目を輝かせている。ついさっきまで激闘を続けてきたとは思えない快活さだ。
二人は礼をして道場を出た。
風が冷たかったが、身体が火照っているので心地よかった。
二人は自転車置き場を目指す。
「話したの?」加奈は興奮気味に訊いてきた。
「なんで」
「あの人、親が議員なんだってね」
「知らないよそんなこと」
「情報があるのよ」
「だからどうしたのよ、加奈、おかしいよ」
「冗談よ」
「少しは真面目にやってよね、よく勝てたものだわ」
加奈の成績は、十四人総当たり戦も、上位七人総当たり戦も、沙也加に次いで二位であった。
「これまで一緒に稽古してた連中だよ、知ってる相手じゃん、半年稽古していなくても、これくらいの成績は当然です」
「はいはい、わかりました」
真面目に剣を交えたら、加奈は恐ろしい相手なのだと沙也加は知っている。
総当り戦で上位に残った選手らは、男女ともに土日は自由参加という形で近隣の警察署道場へ赴いて練習することになった。
阿仁川工業高校の部員たちが稽古する警察署とは別のところなので、北新高校の部員たちと顔を合わせることはなかった。
この間、清水加奈は、何度か北新高校の稽古を休んだ。警察署で行う練習にも二回しか参加しなかった。
「体調を整えるんだって」
沙也加が説明すると、屋の三年生が思い思いの意見を言った。
「何か、私たちには思いもつかないような考えがあるのよね、たぶん」
「いやあ、単に遊び癖がついただけじゃないのかね」
「自分は実力上位なんだっていう余裕なのかしらん」
憶測は飛び交ったが、加奈本人は、どこ吹く風と自分のペースで稽古に参加していた。
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