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ブレンドン・シュタンは、今年で一八歳。名門シュタン家の嫡男で、カーナルド王国の第三王子エイベルの従者でもある。
剣の腕はピカ一、そのため彼は第三王子エイベルの護衛も兼ねていた。
「エイベル殿下。これも可愛いですよ」
「そうだね。可愛い」
ブランドンの目の前では、二人の娘が楽しそうに装飾品を手に取り、笑い合っている。
褐色の髪の一纏めにした女性は侍女のベティー、もう一人はエイベル本人である。腰まである金色の髪は邪魔にならないように編み込まれ、身につけているのは町娘が着るようなドレスだ。
ドレス……。
そう、エイベルは女性の格好をしている。違和感は全くない。多少綺麗すぎて目立っているぐらいだった。
一週間前、カーナルド王国の第三王子エイベルは呪いで、女体化してしまったのだ。
呪いを解く方法は、西の魔女が知っているということで、エイベルたちは魔女が住む西の森へ向かっていた。
「やっぱり殿下、可愛いなあ。あの笑顔、女神様だ。元に戻るなんてもったいない」
旅の一行は、エイベル、従者ブランドン、侍女のベティー、それに五人の護衛騎士だった。
ブランドンは視界に入った一人の護衛騎士フレディの声を拾い、眉を顰める。護衛騎士は精鋭のはずなのだが、エイベルを見て鼻の下を伸ばしているのを見ると、とてもそうとは思えなかった。
五人の護衛騎士たちはエイベルから少し離れた位置で、それぞれ警護についている。目立つのを避ける為に、護衛騎士達も平民の格好をしており、街の風景に溶け込んでいた。
「ブランドン。そう睨むなって。お前だって、そう」
ブランドンはすぐ隣で、飲み物を片手にエイベルたちを眺めている護衛騎士フレディを睨みつける。
フレディはニヤニヤと笑いながら口を開き、言葉を言い終わる前に、彼はその足を思いっきり踏み抜いた。持っていた木彫りのカップは中身は多少溢れたが、落とすような真似はしなかった。
「まあ、お前は、興味ないもんな。女には」
「殿下は男です。変な目で見ないでください」
「今は、女性だろう?」
フレディがそう言った瞬間、ブランダンは反射的に腰に手をやってしまった。しかし、それより先に彼が片手を彼の手に重ねる。
「お前は馬鹿か?騒ぎを起こすつもりか」
それまでの口調とは異なり、フレディは声を低く落とし、彼の耳元で囁く。
「すみません」
「まあ、俺も悪かった。軽口はこの辺にするさ」
ブランドンは素直に謝り、フレディは手を引っ込める。そしてぐいっと木彫りのカップを煽った。
☆
「殿下。また刺繍ですか?」
「ああ、兄に頼まれてね」
「そんな女性がするようなことを」
「……ブランドンは好きじゃない?」
「私は嫌いです。そんなの女性がすることじゃないですか。殿下も縫い物なんて侍女に任せ、もう少し剣の練習をしたほうがいいですよ」
「そ、そうだね。これが終わったら、剣の練習をするよ。君が僕の相手をしてくれるんだろう?」
「勿論です。殿下」
ブランドンは宿泊している部屋で器用に刺繍を始めたエイベルを眺めながら、数年前に交わした会話を思い出していた。
男であった時から、エイベルは刺繍を好んでしていた。
ブランドンにはその腕前はわからなかったが、侍女の話を聞くとかなり上手いということだった。
彼は、王子であるエイベルが女性のような真似事をすることが嫌いだった。
刺繍の他、彼が甘いものを好んで食べるところや、花を愛でるのが好きなところや。
そういう場面に出くわすと、彼は思わず小言を言わずにはいられなかった。
エイベルもわかっているので、ブランドンが目に届かない場所で楽しんでいるらしかった。それを知って、ブランドンは苛立ちを覚えたが、目にしているわけでもないので小言を言う訳にもいかない。もやもやしながらも、過ごしていた。
エイベル・カーナルドは、第三王子。
母親である王妃によく似た美しい王子で、小さい時などは女の子にしか見えなかった。王妃は時折遊び心でドレスなどを身につけさせていた。ブランドンは年齢が近いこともあり、五歳の時から彼の遊び相手として王宮に呼ばれていた。
ドレスを身につけたエイベルを見ると、子どもらしくオカシイと発言して、エイベルを泣かせ、王妃を困らせたこともあった。
ブランドンの母親から、きつく叱られて、何も言わなくなったが、内心、エイベルが着飾るのが嫌でたまらなかった。
彼が八歳になった時、やっと王妃が遊びをやめてくれて、ブランドンは安堵した。そうして彼は心に誓った。
立派な王子になるようにエイベルを助けようと。
そのため、男らしさを彼に説いたり、剣の練習を強要したりした。
エイベルは「そうだね」と言いながら、ブランドンに付き合ってくれた。
(なのに、どうしてなんだ。女体化など。私が絶対に殿下を元に戻してみせる!)
ふとエイベルの方を見ると、ちょうど顔を上げたところで目が合い、微笑まれてしまう。元から女性的な顔だったので、女体化しても顔の造形に変化はほとんどない。けれども彼の微笑みは、ブランドンを落ち着かなくした。
思わず顔を逸らしてしまい、自己嫌悪に陥る。
(女体化した殿下は苦手だ。本当に)
☆
「それでは殿下。おやすみなさい」
「うん。おやすみ」
「ベティー。頼んだぞ」
「はい」
ブランドンは、エイベルに挨拶、侍女ベティーに言葉をかけて、扉を閉めた。
(疲れた……)
魔女の住む西の森、それは王都より四つの街を越えたところにある。
王都を抜け、一日野宿して最初の街にたどり着いた。
ブランドンは宿で休むことを提案したのだが、エイベルが街の様子をみたいというので、宿をとった後、街に繰り出した。
そうして足を止めたのだが装飾品の店だった。
ベティーは髪飾りをエイベルの髪にあてたり、耳飾りを選んだり、楽しそうにしており、エイベル自身も喜んでるように見えた。
王子である彼がそのような行動を取ることが嫌で、ブランドンは終始不機嫌そうに眉を顰めていた。
(悠長に買い物など。しかも女物。必要などなくなるのに)
魔女に会えば呪いは解け、元に戻る。そうなれば装飾品などは必要なくなる。それなのに、エイベルが嬉しそうに装飾品を身につける姿が、ブランドンは不快でたまらなかった。
(早く、早く。西の森へ辿り着き、元に戻ってもらうんだ)
そうなればこの不快な思いからも解放されると、ブランドンは大きく息を吐いた。
「ブ、ブランドン」
扉の向こう側から、こもった声で呼ばれ、それがエイベルの声だとブランドンはすぐに気がついた。
「入ります」
(何かあったのか?)
声をかけてから、ゆっくりと扉を開ける。
そこには頬を赤らめ、恥ずかしそうにしているエイベルがいて、ブランドンは動きを止めてしまった。
(な、何があった?)
寝起きで髪は下され、彼が女性であることを意識させられた。
「……どうも我慢できなくて」
(な、なっ)
不覚にもブランドンは動揺してしまい、少し後退ってしまった。閉めた扉を背に再度エイベルを見つめる。
「悪いと思っている。だが、我慢できないんだ。持ってきてくれないか、壺を」
「壺?」
よく見るとエイベルはもじもじと足を動かしており、何を意味するのか彼は察する。
それはベティーの役目だろうと彼女のベッドに目を向けると熟睡している姿が視界に入った。
「お、怒らないで。お願い」
侍女を叱りつけようと声を出しそうになったブランドンの口は、必死に伸ばされたエイベルの手によって塞がれた。
女体化したエイベルはブランドンより頭一個分低い。
元は同じくらいの背丈だった
二人の距離は一気に縮まり、彼の膨らんだ胸がブランドンに触れ、彼はのけぞる。
「ブランドン」
「……殿下。わかりましたから。手を離してください。あともう少し離れてください」
息絶え絶えになりながらそう告げると、エイベルは少し離れた。
「壺をとってくるのでお待ちください」
ブランドンは一礼した後、何もなかったように扉を開け、部屋の外に出た。
(な、なんだ。いったい。あれは!)
とても柔らかいものが彼の腹部に当たり、一気に覚醒しそうになった。
(私、私は……)
「おお、ブランドン。どうした?」
廊下の端から今回の護衛隊の隊長のバリーが歩いてきて、怪訝そうに問いかけてきた。
「えっと、壺をとってきます。バリー様は代わりにここにいてください」
「あ、ああ」
ブランドンはできるだけ、彼と顔を合わせないようにそう言って、宿の者に排泄用の壺を尋ねるために受付に向かった。
☆
「あれ?寝不足?」
宿は三部屋、エイベルたちの部屋を挟むように両隣に部屋をとった。そのうちの一つの部屋で目覚めたブランドンは、先に目を覚ましていたチャドに声をかけられた。
「少し眠れなくて。けれども皆さんには絶対に迷惑かけないようにします」
護衛たちは態度はとてもゆるいが、精鋭たちだ。三十人いる王族の護衛騎士から、王が五人を選びエイベルの旅に同行させた。
バリーが隊長で、チャドが副隊長だった。
「別にそんなに気にしなくてもいいよ。まあ気楽に」
チャドは童顔でブランドンと同じくらいに見えるが、十歳年上の二十八歳。バリーより四つ年下で、護衛の中で一番背が低い。人当たりがよく、副隊長。隊長に代わりまとめ役をしている。いつも笑顔の彼は申し訳なさそうなブランドンの肩を叩き、食堂へ誘った。
「ブランドン!」
食堂に入るとすぐに声をかけてきたのは、エイベルだった。
彼女のすぐ隣の席には侍女のベティーが座っている。彼を見ると少し申し訳なさそうな顔をしていたが、ブランドンの怒りは収まらない。
(ベティーがちゃんと役目を果たしていれば、私が部屋に入る必要はなかったんだ)
エイベルが男であった時、従者である彼は常に彼のそばにいた。けれども、女性になってからは身支度など手伝えることが減っており、ベティーに任せっきりだった。
マイペースな彼女に対して苦笑することは多かったが、怒りを覚えることはなかった。ブランドンは普段自身がこなしていたことを彼女に求めており、それは彼女にとって荷が重すぎることなのだが、彼は気がついてなかった。
(ああ、早く殿下に元に戻ってもらい、以前のようにお仕えしたい)
「ブランドン。昨日はよく眠れなかった?大丈夫?」
「そんなことはありません」
エイベルに勧められるまま、彼|の右隣に座り、注文をしているとエイベルが心配そうに問いかけてくる。
ブランドンは慌てて平気そうに答えた。
(殿下にも心配させてしまうなんて、本当。私はいったい)
背の高さが変わってしまったので、座ってもエイベルの頭はブランドンより低い位置にある。だから、彼はブランドンを見上げる形になり、それは昨晩のことを思い出せた。
腹部に感じたエイベルの柔らかな感触。
(私は、)
「で、いえ。ちょっと部屋に忘れ物をしてしまったようで、取りに戻ります」
「忘れ物?」
何を忘れるのいうのだろう。
そんな訝しげな視線を感じたが、彼は立ち上がり、そそくさと食堂から出ていった。
(何を考えているんだ。私は)
主君に対して、抱いてはいけない感情。
情欲にも似た、いや情欲そのものをエイベルに対して抱き、ブランドンは呆然とする。
「お?ブランドン。どうした?」
部屋に戻って頭を冷やそうと廊下を歩いていると、護衛騎士隊長のバリーとすれ違う。
「えっと、あの。少し食欲がなくて」
「お前、病気か?なんだ。情けないな。もう少ししたら出発するぞ」
「いえ、食欲がないだけです。出発準備をします」
「ならいいが」
バリーはそれ以上聞かず、食堂へ歩いていった。
それを見送り、彼は部屋に入る。
誰もいなくて、安堵して、ブランドンはベッドに身を投げた。
☆
それから、ブランドンはできるだけ意識しないように心がけたが、だめであった。終いには彼の顔を見るだけで、何かしら胸がドキドキして、体が熱くなってしまい、エイベルにできるだけ接触しない、顔を見ないようにするようになった。
「ブランドン。話がある」
旅も三週間目に入り、三つ目の街シュシュルに入った。次の街を通ったら、西の森へ到着する。
そんな夜、彼はエイベルに部屋に呼ばれた。断りたい気持ちでいっぱいなのだが、王族の命令は絶対で、エイベルは彼の主君だ。
いつも通り三部屋を取り、その真ん中がエイベルと侍女ベティーの部屋だった。
緊張しながら扉を叩き、エイベルの返事があり、部屋に入るとそこには彼しかいなかった。
彼と二人きりで部屋に篭ることは珍しいことではない。エイベルが男であった頃は彼の執務室や部屋で二人で話をすることも多かった。
「ベティーはどこに?」
「ちょっと外してもらった。ブランドンと二人で話がしたかったんだ」
「それはよくありません」
「どうして?私たちはよく二人きりでいただろう?」
「そうですが、」
「だったらいいじゃないか」
笑顔なのに、目が笑っておらず、ブランドンは主君の態度に腰が引ける。
(怒ってる?なぜ?)
「ブランドン。君はなぜ私を避ける?」
「避けておりません」
「嘘だ」
思わず目を逸らして答えた彼の言葉を、エイベルが両断する。
「私、私が女体化したのがそんなに嫌か?だから避ける」
(そうだ。私は、殿下のそんな顔がみたくない)
答えようとして彼を見ると、その青い瞳が涙を湛えて輝いていた。
「ブランドンは、私が嫌いか?」
「そんなことは決してございません」
「なら、今の私が嫌いなんだな」
(そうだ。私は今の殿下が嫌いだ)
そう口に出したいのに、ブランドンは無言のまま、エイベルを見つめた。
彼の瞳に溜まっていた涙が溢れ出し、とうとう頬を濡らし始めた。
(泣くなんて、男らしくない。王子としてふさわしくない)
男であった時なら、彼はすぐにそう叱咤しただろう。けれども今の彼は涙をぽろぽろこぼすエイベルに戸惑い、動けないでいた。
「わかった。君の気持ちはわかった」
(何が?)
エイベルは泣いたまま、そう結論づけていた。
「殿下、それは」
「困らせてすまなかった。本当に」
「殿下、」
何かを堪えるような、とても辛そうな声、表情に、ブランドンの体は自然と動いていた。
「殿下」
「ブランドン!」
彼はぎゅっとエイベルをその胸に抱きしめ、その背中に手を回す。
「殿下」
色々な感情が混ざり合い、ブランドンは目を閉じて、ただエイベルをその腕に閉じ込めた。
「ブランドン……」
最初は抵抗したが、彼は諦めたようにその身をブランドンに預ける。
「私は自分の感情がわかりません。殿下は、私の主君です。あなたは私の大切な主人、こんな風に抱き締めるなんて許されないこと」
(そう、私は何をしているんだ。手を離して、詫びろ)
理性と何かがブランドンの中でせめぎ合っていた。
「殿下。あなたを見ると、私はおかしくなってしまいます。それはまるで」
「まるで?」
それまで黙って聞いていたエイベルが口を開く。
「あなたを異性として意識しているみたいで」
「私のことが嫌いじゃないんだな?」
「当然です。殿下」
「ならば、好きか」
「……はい」
「そうか」
ブランドンの返事をきいた彼は顔を上げて、微笑む。
目は真っ赤で、泣いたせいか心なしか瞼が腫れているようだった。
けれども極上の笑みに、ブランドンは息をするのを忘れてしまった。
「ブランドン。好きだ。私は君が好きだ」
その上、そう言われてしまい、彼は眩暈を覚える。
☆
「えっと、これから俺たちはどうしたらいいのか?」
「まあ、祝杯でも上げましょうか?」
「この街が最後になりますかね」
「いや、一応西の森まで行かないとまずいだろう」
「行こう。次の街、タンベルサの花街はこの国一だぞ!」
護衛たち五人は隣の部屋で、そんな会話をしていた。
「皆さん、お静かに。お二人の邪魔をしてはいけません」
ワイワイ騒ぎそうな護衛たちを抑えたのは侍女のベティーだ。
彼女はこの結末に満足し、ほっとしていた。
呪いは、エイベルのことを思った王太子が魔女に依頼してかけてもらったものだ。
従者であるブランドンを想い続けていた弟の願いを叶えてやろうと、彼を女体化させた。王女としてエイベルを扱い、ブランドンへ降嫁させようとしたのだ。王族の命令は絶対で、ブランドンは断れない。
しかし、エイベルはそれを望まなかった。
ブランドンは嫡男でいずれは誰かを妻に迎える。それを間近でみる覚悟があるのかと問いた王太子に、彼は返事ができなかった。
そこで、王太子は彼の気持ちに決着をつけるため、計画を練った。
女体化させるところまでは、最初と同じ。
魔女の住処である西の森まで女性として過ごし、ブランドンに接して、それを最後に気持ちにケリをつけろと。
エイベルは戸惑ったが、最後にはその計画を受け入れた。
女体化した彼は喜んだ。
いままで我慢していたことがすべて叶う女性の身を喜んだ。それを見て侍女のベティーも嬉しかった。小さい時から彼の側にいた彼女は、エイベルの女性らしさに気がついていた。王女として生まれていればと思ったこともある。
女体化したエイベルは美しく、これなら女性嫌いのブランドンも靡くかもしれない。
ベティーはそんな期待をしていたのだが、彼はエイベルを避け続けた。
このまま魔女の元に辿り着き、王子に戻るのかと落胆していた彼女は、エイベルが勇気をだしたことに驚き、彼の想いが通じたことを喜んでいた。
「なあ、いつまでここにいたらいいんだ?」
「そうですね。それならここで祝杯上げてしまいましょうか?」
「いいですね!」
「いい酒あるかな」
「あ?女もいないのに」
花街大好きジェイコブの最後の言葉を耳に入れ、ベティーは彼を睨んだ。
「ははは」
「えっと、私が注文してきますよ」
「あ、俺もいきます」
ベティーから逃げるようにジェイコブが部屋を出ていこうとするチャドに続く。
女体化の呪いを解くために西の森へ旅立った第三王子一行。
しかし、呪いは解けることはなかった。
けれども王宮に取って返す一行の足取りは軽かった。
第三王子ではなく、第一王女になったエイベルは、しばらくして懐妊する。
ブランドンは父から爵位を譲り受け、若き侯爵になり、エイベルはシュタン侯爵夫人となった。
事情を知っているものは、苦笑を隠せなかった。
「殿下」
「エイベルだ」
「え、エイベル様」
「様もいらない」
「時間をください」
「時間はあまりないぞ。誰かさんのおかげで」
「努力します」
エイベルはお腹をさすりながら、隣に座るブランドンに寄りかかる。
「ブランドン。本当によかったのか?」
「で、エイベル様こそ」
「当たり前だ。私は、ずっと前から君が好きだった」
「ずっと前から」
「気持ち悪いか?」
「いえ、あの」
「いいよ。今の私を好きになってくれたらそれで」
ブランドンは目を細め、妻になった元主君の髪を撫でる。
「……で、エイベル様が時折女性のように見えて、それがとても嫌でした。でも今ならわかる。私も、多分あなたが好きだったのでしょう。だから」
「本当か?」
「はい」
「嬉しい」
がばっと体を起こしたエイベルは、ブランドンに抱きつき、彼は妻のお腹を気にして優しく抱き返す。
女体化した元王子とその従者は表舞台に出ることなくなったが、領地で幸せに暮らし、たくさんの子供に恵まれ、成長した子供たちは王を助け国の内外で活躍したという。
(Happily Ever After)
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