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フレデリカが答えるやいなやジェイムズは目を閉じた。そこからいくらも経たないうちに寝息が聞こえて来たので、疲れているというのは本当のようだ。
椅子から立ち上がったフレデリカは愛しい男性の顔を覗き込む。指先でそっと唇を撫でると、彼は口の中で小さく何かを言いながら首を動かした。その様子からは、凛々しくて威厳のあるいつもの表情が想像できない。
「……ふふ。可愛い」
フレデリカはジェイムズの金の髪を梳く。今度は何の反応もない。人の気配に敏感な彼が、フレデリカにはこんなにも無防備な姿を晒してくれているというその事実が嬉しい。
「寝室に入れてもらえたってことは、前進したと考えていいのよね? あと一押しかな……」
彼が二人の立場と、何より年齢差を気にして分別を保とうとしているのはフレデリカも分かっている。
「でも仕方ないじゃない? あなたのことが好きなんだもの。最初に会ったときからずっと、あなたが私の一番なの」
小さな声で言って身をかがめ、フレデリカは彼の耳元へそっと唇を寄せる。
「ジェイムズ。一番好き。本当よ。だからいつかちゃんと、応えてね」
囁いたフレデリカの姿は次の瞬間、陽炎のように揺らめいて消える。
後にはカーテンの隙間から差し込む月の光が、小さな椅子を静かに照らしているばかりだった。
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