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『聖なる乙女』
この国には神が地上に遣わしたとされる『聖なる乙女』がいる。
聖なる乙女は祈りの力で神の奇跡を発現させるだけでなく、清らかな心と類い稀な美しさを持ち、更には微笑み一つで千の苦しみを祓って万の幸せを与える、とまで言われている。この話に懐疑的な者は数多くいたが、実際に彼女を目の当たりにすると誰もが「噂は本当だった」と口を揃えて言う。
「聖なる乙女は本当に美しかった。あの微笑みを見られるだけで今まで生きてきてよかったと思えるし、またお会いできるかもしれないと考えるだけで今後の生きる活力になるよ」
噂が噂を呼び、聖なる乙女の評判は日を追うごとに増す。ついには遥か遠い国からも「一目でいいから乙女を見たい」と希望する者が続々と集まってくる次第だ。聖なる乙女が住む王都の大聖堂、その前にある広場は日々混雑を極め、さながら毎日が祭りのようになっていた。
そんな人々の願いを理解しているのだろう。聖なる乙女はこのところ、日に何度か大聖堂のバルコニーに現れて挨拶するようになっていた。
このときの先触れを務めるのは、大聖堂の長でもある神官長だ。堂々とした体躯を持つ彼がバルコニーに現れると、どんなに騒いでいる人であっても雰囲気に押されて口を閉じるのが常だった。
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