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「これより聖なる乙女が言葉を授けられる」
通る声で口上を述べた神官長は一歩横へ移動し、今しがた自分がいた場所に向かって深く頭を下げる。するとそこに神官長よりも二回り小柄な姿が現れる。この人物こそが、今年で二十歳になった『聖なる乙女』だ。
吹き抜ける風が乙女の銀の髪をなびかせると、眩い日差しは彼女の髪を光の筋のように輝かせる。その様子はまるで神々から祝福の光を受けているかのようだ。そうしてあまりに神々しい姿に誰もが息をのんだ瞬間、人々の耳に声が届く。
「皆様に神のご加護がありますように」
それが声だと分かるのは自分たちと同じ言葉を操っているから。でなければほとんどの人が麗しい楽の音か、あるいは小鳥の可憐なさえずりを耳にしたと思うだろう。
残念ながら大半の人が聖なる乙女に関われるのはこれが限界だった。彼女が持つ、琥珀色の瞳を見られるほどに近くへ寄れるのはごくわずか。世話を担う神官たちを除けば選ばれた一握りの人物だけでしかない。
それでも多くの者たちは広場でのこの一瞬の邂逅を楽しみにし、再び乙女と会える日を夢見ながら日々を繋いでいくのだ。
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