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それは一室で、密やかに
星々が広い空を覆いつくす頃、神官長は自室でひっそりとその日最後の祈りを神に捧げた。遠方からだと若く見える彼も、近くへ寄ると目尻や口元に皺があるのが分かる。それもそのはずで、彼はあと三年で五十歳の声を聞こうという年齢だった。
大きな手を組んだ神官長は低い静かな声で聖典の句を唱える。最後に深く頭を垂れて、
「神よ。明日も皆に幸いをお与えください」
閉めの句を唱えて目を開けた。
神官長ともなれば部屋に小さな祭壇を設けている。この夜も彼は祭壇の前で祈っていたはずだが、目の前にあったのは祭壇と神像ではなく、一人の若い女性の姿だった。
といっても別に神官長や祭壇が移動したわけではない。神官長と祭壇の間に女性がしゃがみ込んでいるのだ。
女神の姿を表すとも言われるほどの美しさを持つ女性は、白い夜着を纏った姿で神官長を見つめる。
やがて彼女はにっこりと微笑んだ。
満開の花も恥じらうほど麗しい笑みを向けられた神官長は、おもむろに口を開く。
「お部屋へお戻りください」
途端に目を見開いた女性は、神官長に向かってぐいと顔を近づけた。
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