それは一室で、密やかに

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「ひどい! ひどいわ! 一日頑張った私に言う最初の言葉がそれ?」 「あなたに差し上げた本日最初の言葉は、朝の挨拶だったと記憶しております」 「そうね。神官長様は毎朝、聖なる乙女に『おはよう』の挨拶をくれるわね。礼儀に則って。聖典に書いてある通りの。ながぁい言葉で!」  言って乙女は神官長との間を更に詰める。吐息がかかりそうなほどの距離で、彼女は囁いた。 「だけどそれは、ジェイムズがフレデリカにくれる言葉じゃないでしょう?」  神官長ジェイムズは小さく笑った。聖なる乙女フレデリカの前だと、彼はいつも敗北者だ。 「今日もよく頑張ったな、フレデリカ」 「やったぁ! じゃあ、ご褒美もくれるわね?」  顔を上向けたフレデリカは瞳を閉じる。何かを待つような彼女をしばし堪能した後に、ジェイムズは薄紅色に染まった彼女の頬へ唇を落とした。途端に柳眉を釣り上げたフレデリカが目を開け、低い声で言う。 「……そっちじゃない」 「おや。お気に召さなかったかな」 「当り前でしょ。頬のキスなんて全然特別じゃないもの。あなたが頬にキスをしてる姿なんて、今日だけでも十回は見てるわ」 「だけどあれは神官長が信徒に与える親愛の印だ。今、ジェイムズがフレデリカに与えたものとは違うよ」 「え? ええ? そうなの? うーん、だったらいいかな。……って駄目駄目! 全然良くない!」  美しい髪が乱れるのを気にする様子もなく、フレデリカはぶんぶんと首を大きく左右に振る。
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