1.初恋と偽装恋人

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 突然の申し出に、何のことだかわからなかった。 「……すみません、話が聞こえて。 自分で良ければ、偽物の彼氏役になります」 「えっとそれは……、つまり、結婚を断るために彼氏のフリをしてくださると?」 「はい」  彼は真っ直ぐ私を見つめて言った。  その視線にどこか既視感を覚えた。 「……でも、初対面の方にそんなことお願いできません」 「いえ、俺も助かるんです。一時的に彼女になっていただけたら」  一体どういうことだろう? 「……自分も親から結婚しろと迫られていまして、それを交わす口実が欲しく」 「なるほど」  つまり、利害の一致というやつですか。 「それなら、お願いしてもよろしいですか?」 「はい、よろしくお願いします」 「美兎(みと)永美里(えみり)です」 「九竜(くりゅう)青人(はると)です」  その名前を聞いて、思わずドキッとしてしまった。  この人もハルトって名前なんだ……。 「じゃあ、青人さんとお呼びしますね」 「俺も永美里さんと」 「よろしくお願いします」 「こちらこそ」  その日は連絡先だけ交換し、今後どうしていくのかは改めて相談しようということになった。  私たちはこうして互いのために、偽物の恋人になった。
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