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突然の申し出に、何のことだかわからなかった。
「……すみません、話が聞こえて。
自分で良ければ、偽物の彼氏役になります」
「えっとそれは……、つまり、結婚を断るために彼氏のフリをしてくださると?」
「はい」
彼は真っ直ぐ私を見つめて言った。
その視線にどこか既視感を覚えた。
「……でも、初対面の方にそんなことお願いできません」
「いえ、俺も助かるんです。一時的に彼女になっていただけたら」
一体どういうことだろう?
「……自分も親から結婚しろと迫られていまして、それを交わす口実が欲しく」
「なるほど」
つまり、利害の一致というやつですか。
「それなら、お願いしてもよろしいですか?」
「はい、よろしくお願いします」
「美兎永美里です」
「九竜青人です」
その名前を聞いて、思わずドキッとしてしまった。
この人もハルトって名前なんだ……。
「じゃあ、青人さんとお呼びしますね」
「俺も永美里さんと」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
その日は連絡先だけ交換し、今後どうしていくのかは改めて相談しようということになった。
私たちはこうして互いのために、偽物の恋人になった。
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