1.崩れ落ちた幸せ

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「妃乃…っ!これは……!」 「ごめんなさいっ!!塔子が悪いんです……っ!!」  塔子ちゃんは乱れた姿のまま上半身を起こし、涙を溜めて私に訴えかける。 「実はずっと……歩さんのことが好きで、でも尊敬する先輩の彼氏さんだったから……っ。 この気持ちは押さえ込まなきゃいけないってずっと思ってて……でも、この前たまたま歩さんに仕事の相談をさせてもらって、それで……っ」 「違う、塔子ちゃんは悪くない。俺が悪いんだ」 ――この二人は、何を言ってるの? 「塔子ちゃんには、俺がいないとダメなんだ! 塔子ちゃんは一生懸命だけどすごくか弱くて、俺が支えてあげなきゃダメだって……」  ねぇ歩、本当に何を言ってるの?  何を言おうとしてるの? 「俺と別れてくれ、妃乃……。 塔子ちゃんが好きなんだ」 「歩さん……っ」  深々と私に頭を下げる歩と、泣きじゃくる塔子ちゃん。  なんだろう、不思議と感情が無だった。  限界突破すると感情が無になるんだ。  怒りも悲しみも湧いてこない。  ただ、「なんで?」って思う。  私たち3年付き合って、婚約して、これから両親との顔合わせもあるのに――  何がどうなったらこうなるの?  その後、どうやって帰ったか記憶にない。  ただ、左薬指にはめていた婚約指輪は投げ捨ててきたことだけ覚えてる。
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