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「妃乃…っ!これは……!」
「ごめんなさいっ!!塔子が悪いんです……っ!!」
塔子ちゃんは乱れた姿のまま上半身を起こし、涙を溜めて私に訴えかける。
「実はずっと……歩さんのことが好きで、でも尊敬する先輩の彼氏さんだったから……っ。
この気持ちは押さえ込まなきゃいけないってずっと思ってて……でも、この前たまたま歩さんに仕事の相談をさせてもらって、それで……っ」
「違う、塔子ちゃんは悪くない。俺が悪いんだ」
――この二人は、何を言ってるの?
「塔子ちゃんには、俺がいないとダメなんだ!
塔子ちゃんは一生懸命だけどすごくか弱くて、俺が支えてあげなきゃダメだって……」
ねぇ歩、本当に何を言ってるの?
何を言おうとしてるの?
「俺と別れてくれ、妃乃……。
塔子ちゃんが好きなんだ」
「歩さん……っ」
深々と私に頭を下げる歩と、泣きじゃくる塔子ちゃん。
なんだろう、不思議と感情が無だった。
限界突破すると感情が無になるんだ。
怒りも悲しみも湧いてこない。
ただ、「なんで?」って思う。
私たち3年付き合って、婚約して、これから両親との顔合わせもあるのに――
何がどうなったらこうなるの?
その後、どうやって帰ったか記憶にない。
ただ、左薬指にはめていた婚約指輪は投げ捨ててきたことだけ覚えてる。
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