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「ねぇさん大丈夫?」
双子の姉の凪が体調を崩して日本舞踊の舞台にたてなくなったのだ。
急遽代役として雅美は舞台に立つことになった。
始めての舞台、緊張しているはずなのに、妙に心は穏やかだった。
琴の音色が雅美の体を動かす。
周囲は息をするのも忘れて、若干11歳の少女?に目を奪われていた。
舞を舞い終わって緊張の糸が切れた雅美は新鮮な空気を吸いたくなって、そのまま控室の窓から外に出た。
見慣れない土地。
暫く歩いていると、3人の学生に雅美は絡まれてしまった。
「1人?可愛いね良かったらカラオケいかね?」
「あの。。あの。。」
雅美が縮こまっているとぐいっと腕を引っ張られた。
「や。。やめてください。」
雅美はとっさに逃げをうつ。
「いいじゃんどうせ暇なんだろ。」
「や。いや。。」
涙目になっている雅美に男たちはグイグイ迫ってくる。
「なにしてるの?」
その時凛と響き渡る声がして小さな少年が立っていた。
雅美より小柄な少年は竹刀を片手にニコっと笑った。
「教育的指導その1弱いもの虐め禁止」
竹刀でばちーんと1人の背を叩いた。
「イッテェーーー」
そういいつつも男は少年に向かって拳を突き出す。
それを少年は軽々とうけながす。
まるで身軽な猫のようだ。
「教育的指導2嫌がってる子に無理強いしない。あーーもう面倒くさなー」
竹刀をポイッとほかると男たちを次々に投げ飛ばしていく。
小さい体には似合わない力で学生達をやっつけて雅美に向かって手を伸ばす。
「大丈夫かお姫様」
そう言ってニコっと笑った。
その姿が格好良くて雅美はポッと顔を赤らめて小さく頷いた。
王子様みたいだ。
「あ。。ありがと」
雅美の声はまだ震えていた。
「悪いやつはやっつけたからもう大丈夫だよ」
少年はぎゅっと雅美の手を握った。
暖かくて力強い手だった。
安堵の為雅美の瞳から涙がこぼれ落ちる。
少年は持っていたシワシワのハンカチで雅美の涙を拭った。
「可愛い顔がだいなしだよ。着物綺麗だね。」
少年は雅美をジッと見つめた。色白の姿に真赤な着物がはえていてお人形のようだとおもった。
その時だった
「マーちゃんマーちゃん。」
遠くで雅美を呼ぶ声がした。
「あっ。僕いかなくちゃ。。あっ。あの。たすけてくれてありがとう」
雅美は少年から離れると駆け出していく。
「俺栗原結人。またあえるといいね。」
雅美は振り返って頭をペコリとさげた。
その瞬間髪に飾っていた、かんざしが落ちたが急いでいた雅美は気づかなかった。
そのまま声の主の下へと走り去っていく。心臓が高鳴って止まない。
走っているせいかそれとも、雅美の顔がポッと赤くなる。
結人君。。王子様みたいな少年。
その時に雅美の恋は始まっていた。
結人はなにかが落ちたのを見てそれを手にする。
赤い綺麗な花のついた髪飾り。
思わず髪飾りにチュっと口づける。
マーちゃんか。。
「また会えるといいねマーちゃん」
着物を着たシンデレラ。結人は後に雅美のことをそう呼んで友人に話した。
再び出会うその時まで。
雅美。結人。11歳の初夏のことだった。
雅美、結人この日の出会いが二人の運命だことを二人はまだ知らない。
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