濡れた路面

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濡れた路面

はっとしてあたりを見渡すと、木張りの狭い部屋が目の前に広がっている。俺は寝袋の中に籠もっていた。 「懐かしいな…」 眠い目をこすりながら、今日見た夢を頭の中で反すうする。先生と僕の最後の日だった。 「む…嫌な思い出だな。しかし…寒い。」 足先が冷えている。そろそろ冬に差し掛かってくる季節に寝袋1枚はキツくなってくる。3枚とかに増やしたほうが良いだろうか。 この場所は、山の上である。山の上にひっそりと建つ木小屋。僕はこの小屋で、生にしがみつくように命を繋いでいる。山の上に住む、冴えない何でも屋、のような評価をされている俺は、ちょくちょく来る依頼の報酬で弾丸を補充している。食は、罠やら、狙撃やらで獲った動物と、そこら辺の草。我ながら、原始時代のような暮らしぶりにもうんざりしている。 今日は依頼がある。朝早くからでなくてはならない為、いつもよりも速めに朝の支度を終える。 朝食は買ったパンと紅茶。砂糖とミルクを大量に入れた甘ったるい紅茶は寝惚けた頭を叩き起こすのに最適な飲み物である。 バイクに跨り、下山する。依頼者との待ち合わせは街にて行われる為、朝っぱらからお尻を痛めることになりそうだ。 昨日は雨が振っていた。雨漏りが心配になるほどの雨が降りしきる夜を超えた地面は湿って、独特の匂いを発している。土がアスファルトに変わると、滑りそうで少しスピードを緩める。 依頼内容は聞かされていないが、「銃とナイフをもってこい」とだけ伝えられている。ろくでも無いことになるのは等にわかっているものの、一番慣れた仕事である為に、そこまで気負いはない。 「こんにちは、シュペー様。私、グラペジオと申します者でございます。」 俺の目の前で胡散臭さを撒き散らす男が雇い主だった。白いYシャツ、黒いズボンの上、さらに黒色コートを羽織っている。30程の細い男だった。 「シュペーです、どうも。早速ですが今回の依頼について端的に申し上げてもらっても構いませんでしょうか。」 「了解です、」 男は一息置いてから口を開く。 「簡単に言うと今から5分後に来るトラックを襲って中身を私に明け渡して欲しいという依頼です。報酬はその中身の一つでございます。」 自分の顔が引きつるのを感じる。意図の読めない依頼であるのに加え、報酬がなにかまでも分からないのでは、仕様がない。 「嫌な顔をしなさんな、成功報酬はきっとあなたにとって最も価値のあるものになりますよ。この私が言うのですから間違いありません。」 会話の中、太陽が出始めた。そろそろトラックが来る頃合い、受けたなら、受けたなりに依頼を遂行しなければならない。面倒だと叫ぶ心を落ち着けてから「了解です。」とだけ答え、銃の安全装置を外した。
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