1人が本棚に入れています
本棚に追加
30分程歩くと人口の燈はなくなり、月明かりだけが俺達を照らすようになった。
星空は綺麗で、打ち寄せる波の音、二つの砂を踏む音だけがここにあった。
ふと思い立って波打ち際に行き、波に足をつけた。波は適度に温くて、気持ちよくて、一歩ずつ海の方へ進んだ。
胸が浸かるぐらいまで進んだ時、ヒカルの方を振り返った。
「気持ちいいよ」
ヒカルも足を波につけた。
「気持ちいいね」
そう言ってヒカルも俺の方へ来た。
ヒカルが俺の所に着いた時、ヒカルは首まで海に浸かっていた。
徐にヒカルは防水ケースに入ったスマホのライトをつけた。それが水中で無作為に屈折してエモーショナルな気持ちになった。
「綺麗だな」
「じゃああげるよ」
少し驚いてヒカルを見ると、ヒカルは防水ケースについたネックストラップを俺の首に掛けた。
「此処で死ぬつもりなんでしょ」
心が見透かされていた。
「だからあげるよ」
涙が込み上げてきた。
「最後ぐらいね」
悲しいとか、苦しさとか、嬉しさとか、申し訳なさとか、そういう色んな感情で心が溢れて、俺はヒカルを抱きしめた。
骨が折れるほど強く。
「、、痛いよ、」
「ごめんヒカル。全部俺のせいだよ」
嗚咽を漏らしながら言う。
「ヒカルを壊して捨てたくせに、寂しいとかそんな理由で目の前に現れて」
自分を刺すように言う。
「俺は生まれてくるべきじゃなかったんだ」
心の底からの本音だった。
ヒカルはため息を吐いてから軽く笑った。
「僕はミツルを憎んでなんかないよ」
ヒカルは優しく言った。
「初めての親友になれて」
思い出すように言う。
「僕は嬉しかったよ」
その言葉がどれほど俺の心を救い、同時に込み上げていた罪悪感を増幅させただろうか。
「このまま岸に戻る?」
「でも俺はやっぱり生きてちゃだめだよ、」
ヒカルは俺の顔に手を当てて、キスをした。
長くて、濃いキスだった。
「じゃあ、一緒に死のうか、」
一歩ずつゆっくり進む。顎まで海に浸かる。
もう一度キスをして、俺達は海に倒れ込んだ。
最初のコメントを投稿しよう!